2017 Fiscal Year Annual Research Report
変性性認知症の新規病態解明のためのneuro-epigenetics方法論の応用
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16H05319
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩田 淳 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (40401038)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エピゲノム / BRCA1 / FGFR3 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経細胞特異的なエピゲノム異常を検出し,孤発性神経変性症疾患による認知症の新規病態の探索を行い,その分子病態の妥当性を モデル系や疾患脳を用いて検証する事が目的である.新規方法論としてFluorescence-activated cell sorting(FACS)を使用した細胞 核の分取技術を用いて神経,オリゴデンドログリアなどの細胞特異的なエピゲノム変化を網羅的に解析する事で疾患特異的な遺伝子発 現変動パターンを今までにない精度,かつ細胞特異性を持って解析する事を目的とした. 主な変性性認知症として,アルツハイマー病,レビー小体型認知症を設定し,それぞれの神経細胞特異的DNAメチル化解析を施行した .施行例数はアルツハイマー病30例,レビー小体病32例,正常高齢者32例である.その結果病態関連新規遺伝子としてアルツハイマー 病でBRCA1のCpGアイランドのプロモーター異常メチル化を,レビー小体病ではFGFR3のgene body 異常メチル化を検出した. BRCA1は乳がんの原因遺伝子として知られるDNA修復タンパク質であるが,アルツハイマー病の神経細胞ではアミロイドβに寄るDNA損傷が生じており,これを修復する目的でBRCA1の発現が誘導されている事が判明した.しかしながら,細胞中にリン酸化タウが凝集して蓄積することでBRCA1がそこに取り込まれ,細胞核内での働きが阻害されていた. 一方でFGFR3はレビー小体病において神経細胞特異的に発現が上昇していた.レビー小体病において蓄積するαシヌクレインはMAPK経路をその下流において阻害する事が知られているが,FGFR3はMAPK経路の最上流に位置するため,下流でのシグナル伝達の不良を補完する意味合いで上流の活性化が生じている者と考えた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初目標としていた二大変性性認知症での新規疾患関与遺伝子を同定することに成功した.これは当初の予定としては3年度の終了時程での成果として想定していたため,予想以上に順調に計画が進んだと考えている. 一方で,幅広く疾患群を検討する事を想定していたが,進行性核上性麻痺,皮質基底核変性症については剖検脳の入手に難渋している.これは比較的それらの疾患が希少であるためであり,この点においては当初の予想を下回った. この二点を合わせ,全体としてはほぼ計画通りに新下行していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
BRCA1の機能,FGFR3の機能をより詳細に検討する必要がある.とくに,BRCA1の機能回復はアルツハイマー病におけるDNA損傷を直接的に改善する方法に直結する事が想定されるため,最優先事項としたい.BRCA1がなぜリン酸化タウと結合するのか?なぜBRCA1の機能的相同タンパク質が誘導されて機能が補完されていないのか?そもそもBRCA1のどの部分がリン酸化タウに取り込まれるのかをまず検討する.その上でBRCA1の機能回復の方法をin vitroの細胞系でスクリーニングする予定としている. 一方で,現在までに他の神経変性疾患として多系統萎縮症,筋萎縮性側索硬化症の神経細胞特異的エピゲノム解析を終えている.本年度はそこで得られた疾患関与候補遺伝子について,in vitro, in vivoの系を用いて疾患への関与の程度,意義について検討を加えることを目的とする. さらに他の変性性認知症として進行性核上性麻痺,皮質基底核変性症の剖検脳を用いて同様の解析を開始する. そして,他のエピゲノム解析としてヒストン修飾を神経細胞特異的に行う方法論を確立したため,その方法論を用いてアルツハイマー病の剖検脳の解析を行う.
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