2016 Fiscal Year Annual Research Report
母胎間シグナル伝達による胎児大脳皮質インターニューロンの産生誘導機構
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16H05364
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Research Institution | Kanazawa Medical University |
Principal Investigator |
八田 稔久 金沢医科大学, 医学部, 教授 (20238025)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東海林 博樹 金沢医科大学, 一般教育機構, 教授 (10263873)
坂田 ひろみ 金沢医科大学, 医学部, 准教授 (50294666)
島田 ひろき 金沢医科大学, 医学部, 講師 (60278108)
有川 智博 金沢医科大学, 一般教育機構, 講師 (70452670)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 白血病抑制因子 / 胎盤 / 副腎皮質刺激ホルモン / インターニューロン / インターロイキン6 |
Outline of Annual Research Achievements |
母体環境に起因する胎児のエピゲノム変化を、出生後の慢性疾患の形成素因とする仮説(Developmental Origins of Health and Disease、DOHaD)は、病因形成の新しい概念として注目されている。我々が同定した母胎児間シグナルリレー(母体LIF-胎盤ACTH-胎児LIF)による胎児の発生調節機構(Simamura et al, 2010)は、DOHaD仮説を検証するうえで重要なモデルである。さらに、母体免疫亢進状態では母胎間LIFシグナルリレーが遮断され、その結果、胎児大脳皮質の形成障害が生じることを明らかにした (Tsukada et al., 2015)。母体免疫亢進状態では児が自閉症様行動を呈することが知られており、その病理学的背景として大脳インターニューロンの産生・分化障害が示唆されているが、病態成立機序に関して一定の見解が得られていない。大脳皮質インターニューロンの数的・質的異常は自閉症脳の病態と密接な関係があることが知られており、胎生期におけるインターニューロンの生理的な産生誘導機構の解明が、自閉症病態の成立期序解明に必須である。本研究では、LIFシグナルリレーによるインターニューロン産生・分化誘導機構の解明と、その破綻モデルの解析の両面からアプローチしている。平成28年度には、これまでに確立した母胎間LIFシグナルリレーの解析手法をもとに、母体側LIFを過剰状態にした時の、胎児大脳における網羅的遺伝子発現解析を行った。発現亢進が認められた遺伝子群のうち、上位20遺伝子の約半数をインターニューロン産生・分化に関連する転写調節因子が占めることを明らかにした。さらに、大脳皮質インターニューロンの3次元組織定量解析を行うために独自の組織切片作成法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
妊娠マウスへのLIF投与後の胎児大脳における遺伝子発現をDNAマイクロアレイを用いて解析し、発現亢進した神経関連遺伝子の半数以上がインターニューロンの産生・分化誘導関連の遺伝子であることを明らかにした。平成29年度も引きつづき解析を行い再現性の確認をする。また、変動が認められた遺伝子については、定量的RT-PCRによる評価もあわせて行う。マウス胎児および新生児の大脳連続切片を作成しインターニューロンマーカーの免疫染色を行った。すなわち、カルレチニン、GAD67、パルブアルブミンなどの免疫染色の至適条件について検討した。その結果、ステレオロジ解析において要求される厚さ50μm程度の浮遊切片では、抗体の浸透が悪く、組織の透明度も低いため、通常の切片包埋法では深部におけるステレオロジー解析が困難であることが判明した。この点について、組織の脱脂処理および高屈折率性封入剤を開発することで、厚い組織標本でも深部観察が可能となった。ステレオロジーによるインターニューロンの組織学的定量的評価法の確立が遅れたため、生理的LIFサージ阻害によるインターニューロン産生・分化に及ぼす影響の解析については、初年度に遂行することができなかった。しかしながら炎症反応に対して過剰なレスポンスを示すことが期待されるメラノコルチン5受容体(Mc5R)ノックアウトマウスのコロニーを初年度中に確立することができ、このモデル動物を用いた機能解析実験の準備は予定通り進捗した。当初予定していた全胚培養装置については、解析可能期間が短いため導入は取りやめた。また、組織全画面スライドホルダーを用いた画像取得システムの構築については、制御ソフトウエアが研究期間内に完成しないことが判明したため、全視野蛍光撮影が可能な電動ステージと樹脂切片を安定して薄切可能な回転式ミクロトームの導入に変更した。
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Strategy for Future Research Activity |
LIFシグナルリレーによるインターニューロンを産生誘導する生理的マスターシグナルの解明を目指し、初年度に引き続き以下の項目について検討を行う。(1)生理的LIFサージの妊娠時期特異性に関する解析。これまで解析に用いてきたHannoverラットやICRマウスでは、母体および胎児におけるLIF サージが比較的明確に認められるが、C57BL6/JマウスではLIFサージが不明瞭であることから、LIF刺激に対するレスポンスに種差および系統差があることが示唆された。この点について、LIF刺激に対してJAK2/STAT3が優位に働くことが知られる129系統マウス、POMCを介した炎症の抑制機構が破綻しているMC5Rノックアウトマウスも含め、母―胎児間LIFシグナルリレー解析に最適なマウス系統を検索する。(2)LIF刺激に対するインターニューロン産生・分化を促す転写調節因子の発現解析。平成29年度も、DNAマイクロアレイ解析の追試験を行うとともに、変動の認められた遺伝子について、定量的RT-PCR解析により発現量を定量的に評価する。さらに、母胎免疫亢進に伴うLIFシグナルリレー抑制状態におちいった胎児大脳の遺伝子発現についても同様に解析する。(3)胎生期に母体がLIF刺激あるいはLIFシグナル抑制を受けた胎児大脳のインターニューロン総数の3次元解析を平成29年度も継続して行う。(4)網羅的組織定量解析システムの構築。ハイスループット画像取得装置(CV7000、横河電機)に最適化された組織透明化プロトコルの確立と、それらを組み合わせた組織解析システムの構築を継続して行い、胎児および新生児脳の高速・高解像度かつ羅的網羅的な組織解析を行う。
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