2016 Fiscal Year Annual Research Report
ペリサイト機能に基づく脳梗塞後組織修復と神経機能回復誘導メカニズムの解明
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16H05439
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
北園 孝成 九州大学, 医学研究院, 教授 (70284487)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吾郷 哲朗 九州大学, 大学病院, 講師 (30514202)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ペリサイト / アストロサイト / 脳梗塞 / 組織修復 / 神経機能回復 / 神経幹細胞 / マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
脳梗塞は,がん,心筋梗塞とならぶ三大成人病であり,その機能的重症度から新規神経機能回復治療の開発に期待が持たれている.近年,脳梗塞においても神経幹細胞や間葉系幹細胞を用いた再生医療の可能性に注目が集まっているが,その分子・細胞メカニズムは未解明のままである.その理由の一つとして,脳梗塞発症後の組織修復機構が正確に理解されていないことが挙げられる.我々は高再現性・低死亡率のマウス脳梗塞モデルの導入に取り組み,中大脳動脈永久閉塞と一過性閉塞(虚血再灌流)による脳梗塞後組織修復過程の経時的変化を詳細に評価することに成功した.脳梗塞巣内部において,脳を構成する細胞のすべてが細胞死に陥っていると考えられがちであるが,虚血巣内部において神経・アストロサイトがほぼ全滅した後であってもペリサイトは数時間,内皮細胞は1日以上生存することを我々は見出し報告した.梗塞巣内部に残存した内皮細胞はペリサイトの動員と増殖を促し血液脳関門の再形成に寄与するが,さらに細小血管ペリサイトと同細胞由来のPDGFRβ陽性細胞は脳梗塞巣内部の組織修復に決定的な役割を果たすことをこれまでに報告してきた.本研究では,ペリサイトをいかに残存させ,よりよく機能させるための方策を探索し,なぜペリサイトを介した組織修復機構の是非が,神経機能の回復にまで影響を及ぼしうるかを明らかにすることを研究目標としている.組織修復の視点に立った神経機能回復治療の概念は現状ほとんど存在せず,同概念の確立は神経細胞の新規再生を必ずしも必要としない実現可能な脳梗塞機能回復治療の開発に繋がることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多くのマウス脳梗塞モデルの問題点は,梗塞サイズのばらつきと高死亡率であり,脳梗塞後の修復過程を長期かつ正確に評価するのはこれまで困難であった.我々はCB17系統マウスを用いたmodified Tamura methodによる中大脳動脈遠位閉塞モデルを導入することで,高再現性および低死亡率のモデルを実現化し,経時的組織修復過程の詳細な検討を可能にした. CB17を用いた中大脳動脈閉塞(MCAO)脳虚血モデルでは,45分のMCAOで虚血最脆弱部における選択的神経細胞死が観察された.同部位周囲にはGFAPを高発現した活性化アストロサイトの集簇が経時的かつ高度に観察されアストロサイトによる神経保護作用が示唆された.一方,60分以上の虚血では再灌流にも関わらず1日後にはMCA灌流域全体に永久閉塞とほぼ同等の梗塞巣が形成された.このことは脳梗塞形成に域値があり,アストロサイト死が神経細胞死を決定づけている可能性を示唆し興味深い.一方,早期再灌流によって梗塞内部の内皮細胞およびペリサイト(周皮細胞)が生存しうることを免疫組織染色,電子顕微鏡などで明らかにした.ペリサイト死は虚血数時間後(現時点の観察では4時間後以降)より生じ,残存ペリサイトの数が多いほど梗塞内部の組織修復が速やかに生じることを明らかにした.さらに梗塞発生後の早期再灌流は梗塞周囲のアストログリオーシスも高度に誘導した.梗塞内部における線維性応答が抑制されるPDGFRβ heterozygous KOマウスでは梗塞周囲アストログリオーシスが減弱することから,我々は線維性応答によるアストログリオーシス誘導の可能性,すなわち梗塞内部ペリサイト由来PDGFRβ陽性細胞によるアストロサイト活性化を推定している.早期再灌流に伴う梗塞周囲アストログリオーシスの多寡は,神経機能回復とも密接に関連することを明らかにした.
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Strategy for Future Research Activity |
神経幹細胞(Neural Stem Cell, NSC)は成体脳においても脳室下帯や海馬歯状回に存在する.脳梗塞発症後,脳室下帯のNSCは神経細胞よりもむしろGFAP陽性反応性アストロサイトとなり,梗塞周囲へ動員されアストログリオーシス形成に関与する可能性が示唆されている.脳梗塞内部の線維性応答に寄与するPDGFRβ陽性線維芽細胞様細胞が,脳室下帯NSCの梗塞周囲へのリクルートに決定的に寄与することを明らかにしその分子機序を解明したい.PDGFRβ+/-やNox4過剰発現/ノックアウトマウスなど梗塞内部において線維性応答に影響を及ぼす分子群の制御によりアストログリオーシスや機能回復にどのような変化が生じるかを検討する.また,脳梗塞組織のマイクロアレイを用いてアストログリオーシス形成および線維性応答に寄与する分子群の同定に努める.一方,活性化アストロサイトは梗塞内部に侵入することができず,線維化領域と明瞭な境界を形成することから,アストロサイト遊走阻止因子(細胞外マトリックスを想定)も同時に梗塞内部から産生されている可能性もある.関連分子の同定に努め,過剰な線維性応答による有効なアストログリオーシス抑制の可能性についても検討する. これまでの我々の検討から,虚血巣内部においてペリサイト細胞死・血液脳関門破綻が生じるタイミング(4-12時間と推定)において,血管内腔における好中球集簇・neutrophil extracellular traps形成と血液凝固活性の亢進が生じ,高度な組織破綻(出血性梗塞)の発生に抑制的に作用し,機能回復促進に寄与している可能性を見出している.脳梗塞後の出血性梗塞発生は明らかに予後を悪化させるため,組織修復における好中球・凝固因子の役割を明らかにし,組織修復・機能回復の視点からも適正な抗凝固治療開始のタイミングについて詳細に検討する.
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[Journal Article] Early reperfusion after brain ischemia has beneficial effects beyond rescuing neurons2017
Author(s)
Tachibana M, Ago T, Wakisaka Y, Kuroda J, Shijo M, Yoshikawa Y, Komori M, Nishimura A, Makihara N, Nakamura K, Kitazono T
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Journal Title
Stroke
Volume: 印刷中
Pages: 印刷中
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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