2017 Fiscal Year Annual Research Report
三叉神経損傷による島皮質および二次体性感覚野における局所神経回路の再編機構
Project/Area Number |
16H05507
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小林 真之 日本大学, 歯学部, 教授 (00300830)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 智史 日本大学, 歯学部, 准教授 (00386096)
山本 清文 日本大学, 歯学部, 助教 (30609764)
崔 翼龍 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, ユニットリーダー (60312229)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大脳皮質 / 局所神経回路 / 可塑性 / グルタミン酸 / GABA / 神経損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
末梢神経や脊髄の損傷は,末梢のみならず高次中枢の情報処理機構も可塑的に変化させると考えられている。その変化は,末梢神経修復後も持続し,慢性疼痛や幻肢痛の原因になる可能性があり,三叉神経系においても神経損傷後にアロディニアやhyperalgesia,異所性疼痛が生じることが報告されている。歯科臨床においては,三叉神経の中でも特に下歯槽神経の損傷が多く,口腔周囲のしびれなど様々な症状とともに異常疼痛が生じると言われている,その治癒機転については不明な点が多く,なかでも中枢神経系における変化についてはほとんど明らかにされていないのが現状である。 我々は,光学計測法による実験を平成28年度から開始し,ラットの下歯槽神経を切断すると,上顎臼歯歯髄への電気刺激に対する島皮質の興奮応答が著しく増大することを明らかにしてきた。また,この興奮性の増大には,興奮性ニューロンのみならず抑制性ニューロンの活動性の増大も伴っていることを2光子レーザー顕微鏡によるin vivoカルシウムイ・メージングによって明らかにした。 そこで平成29年度は,下歯槽神経切断によって生じる中枢シナプス伝達の可塑性ならびに口腔感覚を生成する皮質内局所神経回路の変性機序をスライスパッチクランプ法により検討した。 下歯槽神経切断モデル動物を作製して1週間後に急性スライス標本を作製し,ケージド・グルタミン酸の灌流下にて皮質スライスの表面の異なる地点にUVレーザーを照射することにより興奮性入力の分布図を作成した。切断モデル群のII/III層錐体細胞およびGABA作動性fast-spiking interneuronは,IV層から強力な興奮性入力を受けることが明らかになった。以上の結果は,下歯槽神経切断後に認められた島皮質における興奮性の増大は,大脳皮質の局所回路の一部が変化することによって生じることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,平成28年度から開始したin vivo実験すなわち,光学計測による巨視的視点からの島皮質周辺の興奮伝播の可塑的変化を明らかにしている。この実験結果を受けて,微視的視点からの2光子レーザー顕微鏡による個々のニューロンにおける興奮性の定量解析に着手した結果,興奮伝播の増大は,興奮性のみならず抑制性ニューロンにおけるカルシウム応答の増大が示すように,神経回路全体の興奮性が増大するためであることを明らかにすることが出来た。 そこで平成29年度には,脳スライス標本を用いたケージド・グルタミン酸(MNI-caged-L-glutamate)による局所神経回路のマッピングを開始した。Laser scanning photostimulationの条件およびケージド・グルタミン酸の濃度の設定にかなりの時間を費やした。また,レーザー光の照射位置の設定を制御するプログラムのトラブルが頻発したため,その改良に時間を有したが,現時点で錐体細胞とGABA作動性細胞に興奮性(グルタミン酸作動性)入力源のマッピングをほぼ終えている。 以上のことから,本研究は順調な進捗状況にあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
大脳皮質の異常興奮についてシナプスレベルでのメカニズムを明らかにする。大脳皮質におけるシナプス結合は,①視床→皮質と②皮質内結合に分類されるため,各々の特性についてモデルと正常動物を比較検討する。オプトジェネティクスは,特定のニューロン群からの入力を選択的に興奮させることが出来るため,従来困難であった視床→皮質間のシナプス結合を皮質→皮質間の結合から分離することが可能である。 1.視床-大脳皮質路の可塑的変化の検証のために,モデルラットもしくは正常ラットをイソフルランで麻酔した後,頭蓋骨を穿孔して視床腹後内側核へChR2 遺伝子配列を含むadeno-associated virus (AAV) ベクターを微量注入する。この手法により,視床から島皮質・二次体性感覚野へ投射するニューロンの神経終末にChR2 を発現させることが出来る。遺伝子導入1-3 週後に島皮質・二次体性感覚野を含む急性脳スライス標本を作製し,共焦点レーザー顕微鏡を用いて蛍光観察下でVenus 陰性の興奮性ニューロンとVenus 陽性であるGABA 作動性抑制性ニューロンを同定する。LED装置を組み込んだパッチクランプ用顕微鏡の対物レンズ先端から照射される青色 (450 nm) 光のON・OFF にてChR2 を活性化し,膜電位ならびに膜電流を測定する。平成29年度途中から,チャネル・ロドプシンを用いたin vitro実験の既に開始しており,アデノ随伴ウイルスによる同チャネルの発現に成功しているが,注入部位のばらつきがあるため,平成30年度はこの点を改良して実験を進めていく予定である。 2.島皮質でのシナプス伝達における可塑的変化の解析 上記のスライス標本からマルチ・ホールセル記録を行って,大脳皮質ニューロン間におけるシナプス結合の特性を明らかにする。
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Remarks |
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Research Products
(38 results)