2016 Fiscal Year Annual Research Report
インドネシア全域における降水の安定同位体マップの作成
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16H05619
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
一柳 錦平 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (50371737)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 安定同位体 / 降水 / インドネシア |
Outline of Annual Research Achievements |
熱帯域において,現在気候下での降水の酸素安定同位体比と気温や降水量など気象要素との関係を明らかにするために,インドネシア気象局に降水サンプリングを依頼し,水の酸素,水素安定同位体比の分析を行っている.今年度はインドネシア全域における約40地点の降水サンプルを,約1年間分取得した.これらサンプルの取得や輸送は,研究協力者であるバンドン工科大学のSuwarman博士と,熊本大学博士課程のBelgamann君が行った. また,降水の安定同位体比の時間変化と気候学的な変動要因を明らかにするために,これまで取得した降水サンプルを用いて,以下の研究を行った.Belgamann et al.(2016a)では,これまで熱帯域で観測された降水の安定同位体比についてレビューし,エルニーニョ南方振動(ENSO)による経年変動,モンスーンによる季節変動,マッデンジュリアン振動(MJO)による季節内変動,日変化による変動など,時間スケールごとに気象現象が降水同位体比に与える影響があることを明らかにした.また,Belgamann et al.(2016b)では,MJOが降水同位体比に与える影響について,インド洋で蒸発した水蒸気がスマトラ島までは到達するため同位体比は低下するが,それより東側では近くの海上から蒸発した水蒸気が起源となり,同位体比は低下しないメカニズムを明らかにした.さらに,Suwarman et al. (2017)では,インドネシアにおけるENSOの影響について,エルニーニョとラニーニャの大気循環やそれに伴う同位体比の違いについて,同位体循環モデルより明らかにした. このように,全球同位体循環モデルを使って,降水の安定同位体比の変動メカニズムを明らかにしたが,今後はインドネシア周辺域で解像度の高い領域モデルを利用して,時間スケールの短い同位体比の変動についても解析する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
インドネシア全域の約40地点で,毎月1-2回の降水サンプリングを,バンドン工科大学を通じてインドネシア気象庁に依頼しており,1年間分の降水サンプルを無事に熊本大学まで輸送することができた.さらに,一部の降水サンプルは同位体分析まで終了している.このように,観測研究は計画通りに進んでいる. また,これまで取得した降水サンプルを使った研究として,国際誌の査読付き論文2報と,国内学会誌の査読付き英語論文1報が出版済みである.さらに,国際誌の査読付き論文1報が受理されている. 当初予期していないこととして,熊本地震後の復旧作業による停電のためと推定できる,質量分析計の電源ボードと,同位体解析モデルや同位体再解析データを保存していた大容量ハードディスク(NAS)2台が,ほぼ同時に故障した.また(復旧作業とは関係ないが),質量分析計のポンプと水同位体アナライザーのポンプも故障するなど,高額な分析機器が多く故障した.そのため,降水サンプルの同位体分析や,同位体循環モデルについては,計画より少し遅れている. 以上のように,想定外の故障による多少の遅れはあるが,今年度は論文の成果が多いため,「当初の計画以上に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度と同様に,インドネシア全域の約40地点で,毎月1-2回の降水サンプルが取得できるように,インドネシア気象局の降水サンプリングを依頼する予定である.こらら大量の降水サンプルの酸素,水素安定同位体比を分析し,降水の安定同位体比の空間分布と季節変化を世界で初めて明らかにする計画である. 今後は,これら取得した降水の安定同位体比データを世界に公表するため,国際原子力機構(IAEA)の全球降水同位体ネットワーク(GNIP)を参考にして,データベースを作成する.なお,日本のGNIP観測地点は2006年までで終了していたが,2015年に代表者が熊本大学での観測を開始して,現在は熊本1地点のみである. また,2017年11-12月には東京大学大気海洋研究所の芳村圭博士と協力して,海洋研究開発機構(JAMSTEC)が主催するYear of Maritime Continent(YMC)観測にも参加する.そのために,調査船みらいでの水蒸気,降水同位体観測と,スマトラ島ベンクル州における降水同位体観測を計画している.降水同位体の集中観測のために,バンドン工科大学のSuwarman博士と,今年度からは熊本大学で学位を取得して帰国したインドネシア技術評価応用庁のBelgaman博士には,現地気象局での降水観測を依頼する予定である. また,同位体領域モデルによるインドネシア周辺域の降水量や同位体比の再現実験を行うために,壊れたNASの修理あるいは新規購入を行い,各種の気象再解析データや同位体再解析データをダウンロードするなど,モデル研究に必要な計算機環境を整える. 最終的には,インドネシア全域での降水の安定同位体比の推定式を完成させ,観測が無い地点でも同位体比が推定できるようにする.また,様々な時間スケールでの気象現象が降水の安定同位体比に与える影響を明らかにする.
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[Presentation] Characteristic of Precipitation Isotope Pattern in Indonesia2016
Author(s)
Halda A. Belgaman, Kimpei Ichiyanagi, Rusmawan Suwarman, Masahiro Tanoue, Edvin Aldrian, Sheila D.A. Kusumaningtyas, and Arika I.D. Utami
Organizer
The 7th International Conference on Water Resources and Environment Research (ICWRER2016)
Place of Presentation
Kyoto TERRSA
Year and Date
2016-06-05 – 2016-06-09
Int'l Joint Research