2018 Fiscal Year Annual Research Report
北極ツンドラ生態系における土壌CO2フラックスの冬期の動態解明と年間の高精度推定
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16H05622
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
内田 雅己 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (70370096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米村 正一郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主席研究員 (20354128)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 極地 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年7-8月、土壌中の二酸化炭素濃度を測定するため、二酸化炭素濃度センサーを設置しているノルウェー・ニーオルスン(北緯79度)に赴き、データロガーからデータを回収した。いくつかのセンサーは積雪期の降雨や急激な昇温に伴う融雪の影響により故障していたが、冬期も含め、通年の土壌ガス中の二酸化炭素濃度の経時変化を捉えることに成功した。前年と比較すると、二酸化炭素濃度の季節変化は、絶対値は異なるものの、季節変化の傾向は類似していた。積雪期の土壌中の二酸化炭素濃度は、前年同様大きく変動しており、積雪期の降雨や急激な昇温による融雪などが二酸化炭素濃度の変動に影響していることが考えられた。 各土壌層位における土壌二酸化炭濃度の変化を推定するためのモデルの開発に着手した。土壌温度や土壌水分などの環境パラメータを元にモデルを構築し、土壌中の二酸化炭素濃度変化をシミュレートしたところ、無雪期間については、実測値を再現できる見通しが立った。一方、積雪期の二酸化炭素濃度の変化をモデルシミュレーションで再現することは現時点では困難だった。この原因として、土壌微生物による二酸化炭素の生成速度、土壌中のガスの拡散などが土壌の凍結時と融解時で異なることなどが影響している可能性が考えられたため、氷点下も含めた土壌培養を実施し、二酸化炭素放出速度の変化を調査している。 2019年3月に調査地に再び赴き、データをダウンロードしたところ、2018年の11月-12月は例年と比較して、降雨や昇温による融雪が多く生じていた。そのため、多くのセンサーに異常値が認められた。次年度の調査に向けて交換用のセンサーを準備する必要が生じた。得られた成果の一部は極域科学シンポジウムで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初は低温による二酸化炭素濃度センサーの故障を危惧していたが、実際には、積雪期間中に生じる降雨や急激な融雪時の水がセンサーの故障を誘発する主要因であることが明らかとなってきた。毎年センサーの故障が生じているものの、通年のデータを取得できているセンサーも有り、北極陸域では初めて2年間連続で積雪期も含む土壌中の二酸化炭素濃度のデータを取得できた。そのため、国際誌に論文を投稿できる準備が整った。さらに、二酸化炭素濃度センサーの季節変動をシミュレートするためのモデル構築に着手できている。当初の予想では、積雪期期間中の土壌中の二酸化炭素濃度の変化は小さいと考えていたが、実際には大きく変化している。この変化をモデルで再現することは現在困難であるが、室内実験を行い、土壌凍結時の二酸化炭素濃度の変化が生じる要因について調査を進めており、得られた結果をモデルに反映させることで、モデルによる積雪期の二酸化炭素濃度変化の再現性を高めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
二酸化炭素濃度測定センサー内部に水が浸入することにより、センサーが故障してしまうことが明らかとなったため、センサーを保護するホルダーの構造およびセンサーの設置方法を改善し、安定的に通年測定を実施できるよう準備を進めている。 積雪期に得られた連続的な土壌中の二酸化炭素濃度の変化については、北極陸域では初めてのデータとなるため、シンポジウムや北極に関する国際会議等で発表するとともに論文化を進めている。ドイツの共同研究者から論文化に必要なデータを提供してもらっており、国際的な共同研究体制も順調に進んでいる。 今後は特に積雪期間中の二酸化炭素濃度の変化をモデルで再現できるようにするため、室内での土壌培養実験や野外での生態系呼吸のデータ、およびドイツが測定している土壌温度や渦相関法のデータ等を取得し、モデルの高度化に繋げる。
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