2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16H05638
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
坂本 昭二 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (60600476)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 至弘 龍谷大学, 理工学部, 教授 (30127063)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 紙分析 / 製紙技法 / デジタルアーカイブ / 古文書 / レンブラント / 敦煌文書 / シャルトル大聖堂文書 / カイロ・ゲニザ文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度に行ったフランスのシャルトル大聖堂において書かれた文書の調査では、紙を非破壊の方法で分析した結果ラグペーパーであることを明確に示す亜麻(または大麻)製とみられる糸片や布片が存在することを示した。また、ウォーターマークの分析によりこれらの文書の紙は14世紀後半頃に使用されていたものであることもわかった。これらの結果は襤褸布を原料とするラグペーパーの製法が中国から中東を経てヨーロッパに伝わっていったこと示す具体的な証拠である。さらに、ヨーロッパでは紙の白さを引き立たせるためとされる青く染められた繊維を混ぜて紙を漉く手法が知られている。シャルトル大聖堂の文書の紙の中にも青や赤に染められた繊維が見つかっただけでなく、青や赤に染められた糸片まで見つかった。これら染色された繊維が故意に紙の材料として使用されたものかどうかについては今後のさらなる調査が必要である。 次に、昨年度に引き続いて、クストディア財団とフランス国立図書館が所蔵するレンブラントの銅版画作品に使われた紙のデジタル顕微鏡による非破壊分析も行った。雁皮紙や竹紙が多く見つかったことは昨年同様の結果であるが、製紙に関する歴史資料の調査から、雁皮紙は日本で、竹紙は中国南部で作られたものである可能性が高いことがわかった。これらの紙は17世紀にオランダ東インド会社によって日本や中国南部からアムステルダムに持ち込まれたものである可能性が高い。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画ではヨーロッパの古い紙について重点的に分析を行う予定であった。計画通りに年代のわかるヨーロッパの古い紙のであるフランスのシャルトル大聖堂で書写された14世紀頃の古文書の紙の非破壊分析を行った。これまでに調査してきた東アジア、中央アジア、中東地域の古い紙の調査では、日本、朝鮮、中国の古文書、敦煌文書、楼蘭文書、トルファン文書、カイロ・ゲニザ文書の分析結果と合わせると、中国で発明された紙が東に向かって日本に伝わり、一方、西に向かってシルクロードを経て中東地域、北アフリカ、ヨーロッパへと伝わったがこれらの地域の古い紙を一応網羅したことになる。現段階では例えば以下のようなことがわかっている。 ・各地域での製紙原材料(楮、竹、大麻、亜麻など)の差異を明らかにした。 ・各地域での填料の差異(敦煌文書(ホータンで書写された文書を含む)や日本の文書の紙には澱粉粒子を大量に含む紙が見つかるが、一方で中東地域やヨーロッパの紙からは澱粉粒子を大量に含む紙はこれまでのところ見つかっていない。) ・敦煌より西方のヨーロッパまでラグペーパーの製法が伝播したことを示す明確な証拠を示した。 さらに、昨年度に引き続いてクストディア財団とフランス国立図書館が所蔵するレンブラントの銅版画作品に使われている紙の分析を行った。こちらは、オランダ東インド会社によって日本や中国からオランダに海路で伝わった紙の調査である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度は最終年度でもあり、当初の計画通りにデータベース公開に向けての準備も行っていく予定である。データ公開に際して分析した文書や作品に関するメタデータ(書誌情報、物理データ、分析データなど)の収集と整理を行い、各所蔵機関との協議が必要であるができる限り情報をインターネット上に公開していく。
|
Research Products
(13 results)