2018 Fiscal Year Annual Research Report
Oversea's Research on Archaeological Proteins as Molecular Markers of Ancient Culture and Civilization
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16H05656
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
中沢 隆 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (30175492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三方 裕司 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (10252826)
小林 祐次 大阪大学, 工学研究科, 招へい教授 (20127228)
河原 一樹 大阪大学, 薬学研究科, 助教 (60585058)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | タンパク質科学 / 質量分析学 / コラーゲン / 旧石器時代 / 動物考古学 / 有機化学 / 翻訳後修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
【実験方法の開発】I型コラーゲンは、2本のα-1鎖と1本のα-2鎖が絡まりあった強固な3重鎖構造により経年劣化を最も受けにくいタンパク質の一つである。そのため、考古遺物中のコラーゲンは動物種に関する貴重な情報源として期待されているが、コラーゲンにはプロリン(Pro)の翻訳後修飾生成物のヒドロキシプロリン(Hyp)が含まれており、質量分析によるアミノ酸配列解析において残基質量(113 Da)の等しいロイシンとイソロイシン(Leu, Ile)との区別が難しく、動物種の判定を非常に困難にしている。本研究ではこの問題を解決するためにHypやセリン(Ser)などのOH基のホルミル化により質量を28 Da(CO分)増加させ、アミノ酸残基を複数含むペプチドの配列解析を確実にすることを試みた。そのために、無水酢酸ーギ酸混合液を試薬として用いるホルミル化の方法を、アゼルバイジャンのギョイテペ遺跡から発掘された8,000年前の動物骨とヨルダンのTor Hamar遺跡から出土した3万から3万5千年前の動物の歯から抽出したコラーゲンの質量分析によるアミノ酸配列解析に適用し、この方法の有効性を確認した。 【海外の研究者との共同研究】平成30年9月の初旬に大阪大学の小林祐次・招へい教授(本研究課題の研究分担者)と共に、フィレンツェ大学(イタリア)のAnna Maria Papini教授を訪問し、(1)考古学試料中のコラーゲンの熱安定性について、(2)トレノ(イタリア)の遺跡から発掘された約6,000年前の動物骨のコラーゲンの同定、および(3)ルネッサンス期の絵画片の素材として用いられたタンパク質の分析、などについての共同研究計画を立案し、既に実験を開始している。この共同研究の一環として、令和元年9月にフィレンツェ大学の若手研究者が共同研究のため奈良女子大学に約1ヶ月間滞在することとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、研究目的を達成するために海外の研究者との共同研究を活用している。当初の計画ではコラーゲンの環境中での安定性から、対象とする考古資料の分析可能な年代は現在から約1万年前までが限界と考えたが、本年度に行ったヨルダンで発掘された形態からは動物種が不明でDNAも検出されていない約3万から3万5千年前の旧石器時代の歯について、コラーゲン由来のペプチドを質量分析によって同定することに成功した。本研究がこのように進捗した最大の原因は、海外の動物骨(歯)の考古資料が国内外の共同研究者から豊富に供給され続けていることが挙げられる。西アジアの旧石器時代の動物の歯は、新学術領域研究(パレオアジア文化史学)における共同研究者のヨルダン発掘調査によって収集された資料であり、東ヨーロッパと北アフリカの考古資料はフィレンツェ大学など海外の共同研究者との交流を通じて、当初計画したよりもはるかに広い年代と地域にわたるコラーゲンを含む考古学資料を入手できた。 考古資料中のタンパク質の分析方法に関しては、平成30年6月に参加したアメリカ質量分析学会(San Diego)のワークショップ(Art and Cultural Heritage: Mass Spec Applications)において、Michael Buckley(マンチェスター大学)やMehdi Moini(ジョージ・ワシントン大学 )ら、世界屈指の研究者たちから最新の情報が得られた。特に、タンパク質のアミノ酸配列解析において残基質量が同じ113 Daのヒドロキシプロリン(Hyp)とロイシンまたはイソロイシンとの区別が非常に困難であるとの問題点が指摘されたが、この問題を解決するために、HypのOH基をホルミル化して質量を28 Da増加させて区別する化学的処理法が平成30年度後半に開発できた。この点でも本研究課題に大きな進捗があったと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、本研究課題は上記の通り、当初の計画以上に順調に進捗している。これは課題が容易であったためでも達成基準が低かったためでもなく、国内外の共同研究者と、その共同研究によってもたらされた資料に恵まれたことが原因である。したがって、研究をさらに推進するためにはこれまで以上に海外の研究者との共同研究のネットワークを広げる必要がある。これまでの研究で空白であった西ヨーロッパの更新世から旧石器時代にかけてにまで研究の対象地域と年代を広げるために、既に共同研究を開始しているAnna Maria Papini(フィレンツェ大学)に加え、動物骨のコラーゲンの質量分析を用いる点で共通の研究手法をとるMichael Buckley(マンチェスター大学)、歯石に残されたタンパク質について独自の研究を行っているJessica Hendy(マックスプランク人類史科学研究所・イエナ・ドイツ)らとの共同研究のネットワークを拡大したい。こうした国際的共同研究によって本課題「古代文化と文明の指標となる考古学資料に残存するタンパク質の海外調査研究」をより古い年代の資料の分析に取り組み、地球規模での人類史の解明も視野に入れた研究に発展させたい。 一方、本研究課題は微量かつ経年劣化の進行したタンパク質の質量分析による動物種の同定を基盤としている。旧石器時代の動物骨で見られたように極端に含有量が低下したコラーゲンを検出し、アミノ酸配列の解析をするには種々の実験上の困難がある。実際の研究内容は、現在から3万年以上も前のコラーゲンの分析で、試料の新しい化学処理(「現在までの進捗状況」の項参照)の開発により、研究に大きな進展があったように、今後も新たに生じた問題に応じたタンパク質の化学的処理法の開発と、質量分析の新しい手法を積極的に導入することによって、考古学資料中のタンパク質の分析において世界レベルの研究を目指す。
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Remarks |
このWebページは国際的研究者および研究機関情報誌:Impact (2018) 69-71.タイトルの全文は、Analysis of the archaeological specimens with protein chemistry and mass spectrometry to address the issues of ancient culture and civilization.
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Research Products
(15 results)
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[Journal Article] Interplay of a secreted protein with type IVb pilus for efficient enterotoxigenic Escherichia coli colonization2018
Author(s)
Hiroya Oki, Kazuki Kawahara, Takahiro Maruno, Tomoya Imai, Yuki Muroga, Shunsuke Fukakusa, Takaki Iwashita, Yuji Kobayashi, Shigeaki Matsuda, Toshio Kodama, Tetsuya Iida, Takuya Yoshida, Tadayasu Ohkubo, Shota Nakamura
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Journal Title
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.
Volume: 115
Pages: 7422-7427
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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