2016 Fiscal Year Annual Research Report
オーラルヒストリーによる旧ソ連ロシア語系住民の口頭言語と対ソ・対露認識の研究
Project/Area Number |
16H05657
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柳田 賢二 東北大学, 東北アジア研究センター, 准教授 (90241562)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 唯史 京都大学, 文学研究科, 教授 (20250962)
楯岡 求美 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (60324894)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | オーラルヒストリー / 旧ソ連 / ロシア語 / 言語接触 / 文化変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28(2016)年度は初年度であり、本研究の代表者および分担者の各人とも旧ソ連の一般人を対象とするオーラルヒストリーの聞き取りは初めて取り組む作業であったため、文字通りの手探りからスタートした。代表者の柳田は9月にウズベキスタン、12月にモスクワでの聞き取り調査を行う予定であり、実際にウズベキスタンでは言語学分野の前科研費で調査補助者を務めてくれたウズベク人が有能なコーディネーターとして多くのロシア語系住民との交渉に当たってくれたため実際に3名の高齢女性から独ソ戦時やスターリン時代に関する証言を得ることができタシケント生まれ(3世)1名、ウクライナ生まれ2名のロシア語の音声サンプルを得ることができた。しかし同国サマルカンド市での調査中に夜道で転倒して腰を痛め、さらに帰国後の寒冷化とともにそれが悪化したためやむなく年度内のモスクワにおける中央アジアからのソ連崩壊後の移住者の調査を断念し、繰越を申請することとなった。この繰越分により2017年8月にモスクワ近郊の2つの小都市において3名の中央アジアから移住したロシア人のオーラルヒストリー採取することができた。 研究分担者の中村は、同楯岡の研究協力者1名とともにアルメニアのエレバンでのオーラルヒストリーの採取に当たった。また楯岡はシベリアのオムスク・ドラマ劇場支配人と同劇場の「アカデミア」演劇祭責任者からソ連時代と現在のロシアの演劇状況の違いについて聞き取り調査を行った。クラスノダール出身の演劇評論家から、クラスノダールに多数の民族コロニーがあり、特にギリシャ系、グルジア系、アルメニア系、ウクライナ系はロシア語を基本言語としつつ、固有の言語も維持しているとの情報を得、2018年度にクラスノダールの現地調査を行うことにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のようにオーラルヒストリーの聞き取り調査は各人とも初めてであるため聞き取り調査自体については予定通りの効率で実施できたとは言えないが、3月12日に東京大学文学部で研究会を行って各地で聞き取った内容を報告し合ったところ、旧ソ連市民の移動には独ソ戦やフルシチョフ期の農業政策失敗による食糧危機が大きな影響を及ぼしたことが一層明らかになり、またロシアから見て「西」にある第2次大戦の激戦地から中央アジアや南ロシアという「南」への移動した者が多いことが判明した。また、代表者柳田は前科研費でのウズベキスタンのロシア語方言に関する調査においても、ソ連崩壊後にウズベキスタンからロシアへ移住した(あるいはしようとしている)ロシア語系住民でも移住先に比較的温暖で農産物の豊かなクラスノダールを選ぶ者が多いという証言をインタビュー中で得ている。このことからロシア内の「南」であるクラスノダールの重要性が浮上し、また、「西」を担当できる者を研究分担者に加えることを検討することとなった。 また、方法論面においても、「外国人を見たらスパイと思え」というソ連式外国人観が旧ソ連の一般人の意識に今でも色濃く残っているため、オーラルヒストリーの聞き取りには有能な現地人コーディネーターが必要不可欠であるとの認識を全員で共有することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記のような理由でこれまで主にロシア主要部から見ての「南」(カフカース、中央アジア、南ロシア)と「東」(シベリア)を対象としてきた本科研費課題においても、「西」(ウクライナ、ベラルーシ、バルト3国)を視野に入れる必要が出てきた。しかしベラルーシは親露路線を取りロシア語系住民が多いとはいえ「欧州最後の独裁国」と呼ばれるほど権力による市民監視が厳しく、またウクライナは2014年のクリミア併合後極度の反露路線に移ってロシアとの関係が極度に緊張し、現実に同国東部で「親ロシア派」と政府軍との局地戦が続いているため研究者の身の安全を考えると同国ではロシア語系住民のオーラルヒストリーの聞き取りなどは到底計画できない。そこで、旧ソ連圏ながら現在はEUに属し、「西側」の国々となったバルト3国のロシア語系住民を対象としてオーラルヒストリーを採集することにした。このためバルト・スラヴ語学を専門とし、ロシア語に加えラトビア語にも通じている岩手大学の堀口大樹准教授に研究分担者として本研究課題に加わってもらうことにし、本人の快諾を得た。また有能な現地コーディネーターの必要性を全員が認識したので、平成29年度が始まる前から現地の知人に連絡を取り、なるべく研究者ではない一般人のコーディネーターを確保することにした。ここでコーディネーターとして現地研究機関の研究者を採用することを敢えて避けるのは旧ソ連のいずれの国であれ我が国とは違って「学問の自由」が保障されているわけではなく、当該国の公式見解をそのまま述べるような者を聞き取り対象者として押しつけられることを避けるためである。 以上のような経緯により、本研究課題は第2年目の平成29年度以降は研究代表者と研究分担者計4名により、国内の研究協力者と現地コーディネーターの助力を得つつ行うことにした。
|
Research Products
(1 results)