2018 Fiscal Year Annual Research Report
オーラルヒストリーによる旧ソ連ロシア語系住民の口頭言語と対ソ・対露認識の研究
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16H05657
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柳田 賢二 東北大学, 東北アジア研究センター, 准教授 (90241562)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 唯史 京都大学, 文学研究科, 教授 (20250962)
楯岡 求美 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (60324894)
堀口 大樹 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (50724077)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ソ連 / オーラルヒストリー / ロシア語 / 言語政策 / 言語接触 / 文化変容 / ソビエト文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題のタイトルに「ロシア語系」という語があるのは代表者の柳田が2013~2014年にこの科研費研究を構想する段階で、自身が毎年訪れているウズベキスタンでロシア人を含む欧州系住民(注:出自を問わず現在ではロシア語が母語となっている)を指す語として用いられている"русскоязычный"(英語に直訳すれば“Russian-languaged”)を訳して用いたからに過ぎない。 しかし、2014年春のロシアによるクリミア併合の口実の一つに「ロシア語系住民を守る」ことが挙げられていたことに端的に表れているように、この語は全く予想外に政治的にホットとなってしまった。現在までの研究で知ったこととして、ウクライナとロシアが連日「荒唐無稽」と評するほかないプロパガンダを執拗に国民に見せて自国民を半ば呆れさせながらも着実に相手への敵愾心を煽っていることや、ソ連時代を「占領による暗黒時代」と規定して否定し、EUに加盟して人権尊重の自由主義国となったはずのバルト3国では国家語として定めた民族語(エストニア語、ラトビア語、リトアニア語)の検定試験に合格していない「ロシア語系住民」に対して就職を制限し、市民に「通報」を奨励しつつ「言語警察」的行政機関を使ってロシア語使用を抑圧しているのみならずエストニアとラトビアは国家語の検定試験に合格していないロシア語系住民には参政権すら与えないことや、さらにこの両国はNHKの取材があると「ソ連時代にはエストニア語/ラトビア語の使用が禁じられていた」という大嘘をさりげなく挟み込むことなどが挙げられる。 2018年度の本共同研究の結果、研究チームでは「ソ連は崩壊したが消滅したわけではなく、『プロパガンダ国家』、『密告社会』、『全体主義的国家観』というソ連の負の遺伝子が変異しつつどの国においても受け継がれていると言えるのではないか」との感想を共有するに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2018年12月22日に仙台で公開シンポジウムを行い、モスクワ市・州と上出のバルト3国のほかアルメニア、ジョージア、カザフスタン、ウズベキスタンのほかジョージアからロシアのクラスノダール州に再移住し、極めて特異なキリスト教を信仰するロシア語系住民たちに関する報告がなされた。この研究集会における研究チーム成員および研究対象国民のゲストスピーカーの報告から、ソ連時代のこれら各国には気候風土、民族集団、母語、宗教、生業、生活様式といったあらゆる面に非常な多様性があるにもかかわらずそれらの違いを横断する「ソビエト文化」と呼ぶべきものが形成され、いずれの国においてもそれが現在に至るまで拭い難く残っているという認識を共有するに至った。 上では「プロパガンダ国家」、「密告社会」、「全体主義的国家観」といった負の側面に言及したが、「ソビエト文化」には否定的側面だけではなく肯定的な側面も大いにあった。それゆえ、ソ連時代を占領による暗黒時代と規定するバルト3国の人々ですら「懐かしいけれども帰りたくない」と表現する。ましてやフルシチョフ期までに学校教育を受けた高齢のロシア人とは戦勝国かつ世界一の大国であるソ連の極盛期を事実上の支配民族の成人として過ごした人々であり、彼らがソ連について「もし帰れるものならもちろん帰りたい」と考えるのは当然のことである。 こうした事実認識に立てばロシアの民族主義者たちのデモでロシア正教のイコンとソ連国旗や軍旗とスターリンの肖像が共存していることに何の不思議もないことが理解できる。それらはいずれも膨大な人的犠牲を払いつつドイツに完勝し、ベルリンを陥落させたロシア人の最も誇るべき瞬間を象徴するものだからである。そしてまた、ロシア人以外であっても「ソ連全国民がナチスドイツを倒した」との認識および戦後史をロシア人と共有している。これに気付いたことも今年度の重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在ウクライナとロシア、バルト3国とロシアのほか、2008年の南オセチア紛争以来ジョージアとロシアの間も非常な緊張状態にある。ここ数年間のロシアは2014年春のクリミア併合を理由とした日本を含む西側諸国による対露経済制裁に同年秋の原油価格急落が追い打ちをかけて激しい景気低迷に陥り失業が増したことや、ロシアから西側への対抗制裁によってそれまで簡単に買えていた商品が店頭から消えて粗悪類似品がそれに取って替わったことなどで一般庶民の生活全般が苦しくなり、それが西側一般に対する強い反感となって人々の心理面に表出している。 他方バルト3国はEUに加えNATOにも加盟しており、親露独裁国ベラルーシとロシアの飛び地カリーニングラード(旧独領ケーニヒスベルグ)州に挟まれたリトアニアが徴兵制を導入し学校でも軍事教練を開始する一方、エストニアにはドイツ軍を含むNATO空軍が駐留するのみならず国家公認の民兵組織までもが出現している。いずれにおいても仮想敵とされているのはロシアである。ところがこのような状況下でバルト3国は敢えてロシアから見れば挑発以外の何物でもないロシア語系住民への人権抑圧を続けている。しかも経済大国英国がEU離脱の方法を巡って迷走するうちにロシアとも露骨な民族主義政策を採る東欧各国とも相容れないシリア難民が多数EU圏内に流入し続けている。これほどに現在の東欧は緊張しており、もはや「一触即発」との形容が最もふさわしい状態に至っている。 このような状況下の旧ソ連諸国でのオーラルヒストリー採取が細心の注意を要する作業であることは言うまでもない。平成31年度は本研究課題の最終年度なので現在も残存することを知った「ソビエト文化」という漠然とした、しかし明らかに存在するemicな単位が各国においていかなるeticな現象として実現されているかを知るための質問をし、解明して研究成果にまとめる。
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Research Products
(16 results)
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[Presentation] Round-table discussion2018
Author(s)
Kumi Tateoka, Tadashi Nakamura
Organizer
Multiculturalism and the Soviet Regime, Cultural Studies: Emic-Etic Correlation in Research and Teaching, Tbilisi State University
Int'l Joint Research
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