2018 Fiscal Year Annual Research Report
在外松方コレクション資料の学術調査と美術品来歴研究
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16H05668
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Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
馬渕 明子 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, その他部局等, 館長 (30114656)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
陳岡 めぐみ 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 主任研究員 (50409702)
川口 雅子 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 主任研究員 (70392561)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 松方コレクション / 来歴研究 / 画商 / フランス近代美術 / 英国近代美術 / アーカイヴ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本人実業家・松方幸次郎によって1920年代頃にヨーロッパで収集された美術品コレクションの全容解明のため、現地に残された作品売買記録等の資料収集・学術調査を行うことを目的とする。従来の松方コレクション研究は主に日本所在の文献に基づいており、海外資料は断片的にしか参照されてこなかった。今回は作品収集の地であるヨーロッパ、および記録の流出先である米国に調査の範囲を拡大し、文書館や美術研究所で新資料の発掘を目指している。 本研究の背景には、戦争による文化財略奪等がもたらした欧米諸国における来歴研究の興隆がある。日本はこの分野ではるかに遅れをとっているが、本研究が刺激となり新しい学問分野の開拓につながれば、と考えている。 来歴研究に主眼を置いた本計画の遂行のためには作品売買の記録(帳簿、領収書、書簡等)の収集が欠かせないが、資料は作品収集の地であるヨーロッパ各都市の文書館、美術研究所、画商アーカイヴズに保管されているほか、米国の研究機関にも流出しているため、現時点で把握している資料保管先で収集活動を行いながら、並行して所在先の調査を進めた。 平成30年度は、ヨーロッパでの資料収集活動の一環として、パリおよびロンドンの美術館・美術研究所等で美術品来歴資料の調査を行った。収集資料は作品毎の個別フォルダーに分類・整理すると共に、松方コレクション作品データベースのデータ入力・更新を行った。 この研究成果は『松方コレクション西洋美術全作品』2巻に反映されているが、さらに令和元年度に当館で開かれる「松方コレクション展」の展示およびカタログにも盛り込まれる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は、前年度に引き続きフランス・パリのロダン美術館、ブールデル美術館、国立公文書館、建築文化財メディアテークその他の機関で松方コレクション接収返還に関する資料調査を行った。このうち建築文化財メディアテーク写真部門においては、パリのロダン美術館に保管されていた時期の松方コレクション記録写真一式が新たに発見された。フランス人写真家ピエール・シュモフ(1872~1936)の撮影になるガラス乾板約360点で、これまで作家名・タイトルにより知られるのみで画像不明だった作品も含んでいることから、きわめて重要な発見となった。またパリ郊外のアボンダンを訪問し、第二次大戦下の松方コレクション保管の足取りを追跡することができた。 イギリスでは引き続きテート美術館、ポール・メロン財団英国美術研究センター等で美術品来歴資料の調査を行ったほか、グリニッジ海事博物館では英国画家ワイリー《英国御訪問の香取、鹿島》の関連素描などを見出し、あわせて松方コレクションの海洋画について種々の情報を得ることができた。このほか米フィラデルフィアのロダン美術館への資料照会を進め、ロダン彫刻鋳造についての情報を収集した。 収集資料は、作品毎の個別フォルダーに分類・整理すると共に、分析結果・来歴データ等をコレクション情報管理のプラットフォームである松方コレクション作品データベースに入力した。各作品レコードには「来歴」「展覧会歴」「文献歴」の記入欄を設け、情報更新に努めた。 さらに本調査の成果を『松方コレクション 西洋美術全作品』第1巻 絵画(東京:国立西洋美術館、2018)、同第2巻 彫刻・素描・版画・工芸その他(東京:国立西洋美術館、2019)としてまとめ、国内外の図書館・美術館に無償提供するとともに、外部出版社と連携し書籍として一般流通するように努めた(書籍製作の直接経費は本研究費外。第2巻配布および一般販売は次年度に持越し)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画により収集した資料分析により得られたデータを集積するプラットフォームとして、引き続き松方コレクション作品データベースを維持する。各作品レコードには「来歴」「展覧会歴」「文献歴」を記入する。これらの作業の実施のため、必要に応じてアウトソーシングを行う。国立西洋美術館が収蔵する松方コレクション由来の作品については、すでに公開中の収蔵作品データベースにも研究成果を還元し、各作品の来歴データとして和英二か国語で国内外に発信する。 また本研究計画をきっかけに生まれたパリのウィルデンスタイン研究所との研究協力体制のもと、同研究所と共同で企画した国際シンポジウムを2019年7月頃に開催する。美術史研究ではある芸術家、あるいは一つの美術館やコレクションの全作品を網羅した書物のことを「カタログ・レゾネcatalogue raisonné」と呼び、作家・コレクションに関する必須の文献とみなしているが、その編纂に際しアーカイヴ資料(手紙、日記、作品売買記録、所蔵品目録、写真記録等)やドキュメンテーション資料(新聞記事、展覧会冊子等)が不可欠かつ重要な役割を果たしていることは見落とされがちであり、本シンポジウムではデジタル時代におけるカタログ・レゾネの重要性、およびそのなかで果たしているアーカイヴ資料の役割を考察する予定である。 さらに本研究により得られた成果を活用し、2019年6月から9月にかけて国立西洋美術館にて「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」を実施して、広く一般に向けて研究成果の還元をめざす(展覧会の直接経費は本研究費に含まれていない)。
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Research Products
(12 results)