2019 Fiscal Year Annual Research Report
王家の谷の王墓に記された「天井碑文」の画像史料化と公開に向けた調査研究
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16H05680
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Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
菊地 敬夫 東日本国際大学, エジプト考古学研究所, 教授 (10367112)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 真知子 東京工芸大学, 工学部, 名誉教授 (30226005)
犬井 正男 東京工芸大学, 工学部, 名誉教授 (50125902)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 古代エジプト / 宗教文書 / テキスト性 / 天井碑文 / アムドゥアト書 / 死者の書 / デジタル画像 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年8月から9月にかけてにエジプト、王家の谷に位置するセティ1世王墓にて、天井碑文のデジタル画像データを収集するための現地調査を実施した。この画像データは、これまで未報告の同王墓の天井碑文を史料化するための基礎資料となる。 令和2年3月には、セティ1世王墓以外の王墓で、同様な現地調査を実施する予定であったが、相手国の事情で実施することができなかった。この調査を令和2年度に行う予定であったが、コロナウィルスによるパンデミックのために実施は困難であった。 そこで、天井碑文と関連の深い宗教文書であるアムドゥアト書、および死者の書を資料とし、文書のテキスト性に関する考察を進めた。その狙いは、天井碑文に見られる設定されている行をその下端までテキストを記入せず、一部、空欄として残すこと、また全くテキストが記入されずに数行がすべて空欄となっているという現象について、上述の文書の事例を参照して、比較検討することであった。アムドゥアト書は、王家の谷のアメンヘテプ3世王墓に記されたテキストをデジタル化したもの、死者の書に関しては、エジプトのカイロ博物館に所蔵されているユヤの死者の書を参照するとともに、その出版資料を用いた。また、U. Roessler-Koehlerによる、古代エジプトのテキスト中に見られる空欄に関する先行研究を参照して本研究を進めた。 その結果、アムドゥアト書では、テキストを筆写する際に文字だけではなく、空欄さえも原本にある通りに、あらたなテキストに再現するという方針があったと考えられた。したがって、天井碑文においても、行の下端が記入されず、空欄として残されている場合、その原本となったテキストにある通りに改行がなされた結果であると推測できた。一方、数行が全くの空欄として残されるケースについては、何に起因するのか、さらなる検討が必要であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
相手国の事情やコロナウィルスによるパンデミックの影響で、一部、エジプトの王家の谷における現地調査を実施することができなかった。これによって、研究対象としている天井碑文のデジタル画像収集が遅れている。 ただし、本研究課題のなかで最も重視している、未発表のセティ1世王墓の天井碑文については、そのデジタル画像データを収集することができている。また、現地調査の実施が困難な中で、天井碑文のテキスト性を理解するために、それと関連の深いアムドゥアト書と死者の書との比較研究を進めることができた。このように、一部、順調に進捗したところもある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の進捗が遅れている背景には、コロナ感染症によるパンデミックという世界的な状況下で、エジプトの王家の谷での現地調査を実施できなかったことが主な理由としてあげられる。研究代表者は、この状況を、とりわけ日本とエジプトの状況を注意深く見極め、収束が期待される令和3年度の夏以降に、規模を縮小しつつも、エジプトの王家の谷での現地調査を実施したいと計画している。当然のことながら、そのような環境が整うか、どうか、今後も慎重に検討していくことになる。 一方、研究実績の概要に記したように、天井碑文に関連する比較資料を有効に利用し、考察することで、天井碑文のテキスト性に関する研究を進捗させることができた。今後も、このような比較研究を継続することで、本研究の目的を達成することに近づいていきたい。
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