2018 Fiscal Year Annual Research Report
ケニアの半乾燥・貧困地域における生活用水のローカル・ガバナンスと生計安全保障
Project/Area Number |
16H05686
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
上田 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (10241514)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大月 義徳 東北大学, 理学研究科, 助教 (00272013)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 水資源 / ガバナンス / 生計 / 貧困 / ケニア |
Outline of Annual Research Achievements |
課題1:水資源ガバナンス制度の把握と生活用水アクセス分析 (A)マチャコス・カウンティ,ムワラ地域の村落部で上水道会社と水利用者組合の事業内容を調べ,また選挙区開発基金とカウンティ政府の水関連支出の数値を得た。(B)同地域の各種水源(給水キオスク,河川,貯水池,地下ダム等)を測位して用水アクセス地図を作成した。(C)同地域から生活用水と家畜用水の競合度および上水道の利用可能性に差のある2村を選び,無作為抽出した世帯と酪農協同組合員の水源利用・管理を調査した。
課題2:生活用水ローカル・ガバナンスの分析 (A)収集済みの用水時系列データを分析し,また新たにムワラ地域の井戸用水状況を計測した。(B)同地域で給水所等を運営するNGO,上水道会社,カウンティ政府などの間に民営化・分権化後に生じた競合・補完関係について聞き取り,上水商品化の諸相を把握した。マチャコス市内でも同様の調査を行った。(C)用水ガバナンスが世帯生計に与える影響を,水源競合・補完関係と家畜用水との関係を考慮しながら検討した。(D)村落部の給水所では顕著な用水待ち行列は現れず,計測に至らなかった。
課題3:生活用水ローカル・ガバナンスの政治経済的文脈の分析 (A)各種給水事業の調査と(B)各主体間の関係把握を続け,貧困層の用水アクセスへの制度的・政治経済的障壁,とくに用水アクセス多様化と恩顧主義について検討した。カウンティ政府の無償給水政策がNGO等による有償給水源に与える影響(競合による後者の閉鎖,前者による後者の接収あるいは後者への無償化圧力)を把握した。これにより,受益者負担原則と,給水をローカルな政治資源として利用する恩顧主義とがせめぎ合い,水部門の新自由主義化が局地的レベルで揺らぐ状況を確認した。(C)生活用水ローカル・ガバナンスが人々の生計安全保障に与える影響について,村落と都市の事例を比較した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も,水セクター改革に加えて地方分権化が人々の用水アクセスをどの程度,どのように変化させつつあるのかを明らかにすることを目的として,給水所の運営に注目して生活用水商品化の実態を検討する作業を継続できた。とくに,改革後の有償共同給水所と地方分権化のなかで無償給水するカウンティ政府共同井戸が村落部において生み出している競合・補完関係の実態を具体的に確認し,この競合・補完関係に注目して用水ガバナンスの実態を明らかにできた。さらに,村落部において用水世帯を対象とする質問票調査を実施してデータを得たことにより,都市部で実施済みの調査結果と比較する準備が整った。
本年度はこの村落部における無作為抽出世帯調査と有償・無償給水の競合・補完関係に関する聞き取りに多くの時間を割いたために,新しい都市計画図や各種の統計・行政情報と衛星画像等からマチャコス市の用水アクセス地図を作成する作業に課題が残った。他方,村落部では,用水世帯と各種水源の測位は完了し,すでに用水アクセス図の試作に入り,現地調査においても活用することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
課題1:水資源ガバナンス制度の把握と生活用水アクセス分析 (A)マチャコス市およびムワラ地域の村落部において,上水道会社の再販給水所,NGO等による有償給水井戸,カウンティ政府の無償給水事業,地下ダム・貯水池の利用等について,補足情報を得る。(B)両地域で収集してきた都市計画図等,都市化図,用水位置を重ねて用水アクセス地図を作成し,各種水源の利用状況をまとめる。(C)両地域で実施済みの用水調査データを分析し,用水の特徴を把握し,比較検討を進める。
課題2:生活用水ローカル・ガバナンスの分析 (A)収集済みの用水データを分析し,また計測例を追加する。そして有償・無償給水所のデータを比較し,違いの有無・質を検討する。(B)村落部のNGO給水所や給水会社の料金設定や上水の再販・商品化の実態と,これら有償給水とカウンティ政府の無償給水政策の競合・補完について聞き取りを進め,(C)用水ガバナンスにみられる水源間の関係が世帯の用水に与える影響を,季節性や年々変動を考慮しつつ検討する。(D)用水待ち行列がみられる場合にはそれを計測し,用水の柔軟性,効率性,公平性についてシミュレーション分析を行う。
課題3:生活用水ローカル・ガバナンスの政治経済的文脈の分析 (A)各種の民間給水事業およびカウンティ政府無償給水事業の調査と,(B)これらの競合・補完関係の把握を続け,貧困層の用水アクセスへの制度的・政治経済的障壁の有無・強さを検討する。とくに恩顧主義と用水アクセス多様化について,1)都市部・村落部とも用水アクセス不良区域での問題解決イベントに加え,2)有償給水事業とカウンティ政府給水事業の競合・補完の程度を把握し,給水の政治資源化と恩顧主義について検討する。(C)用水アクセス多様化に注目して村落と都市の事例を比較し,給水所等とそのガバナンスが人々の生計安全保障に与える影響を理解する。
|
Research Products
(2 results)