2017 Fiscal Year Annual Research Report
太平洋島嶼部における強制移住経験者の共感による連帯と排他性の生成に関する研究
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16H05688
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
風間 計博 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (70323219)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 共感 / 排他性 / ディアスポラ / 太平洋島嶼部 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、共感・感情に関わる文献収集を行った。また、関連して近年着目を集めている情動(affect)理論に関わる文芸評論や社会学の文献を収集した。加えて、オセアニアおよび他地域を専門とする人類学者・文学研究者等を招聘して、当該年度に研究会を2回開催した。研究会では、ニューギニア高地およびクリスマス島(キリバス)における事例研究の発表に基づいて、参加者間で議論を深め、意見交換を行った。 また、ニュージーランド・南オークランドに在住するバナバ人・キリバス人夫婦世帯に住み込んで実地調査を行った。妻はフィジー諸島ランビ島で生まれ育ち、十歳代後半に両親の住むキリバスの首都タラワに移住した経験をもつ。そして、キリバス人男性と結婚した後、オークランドに再移住してきた。ニュージーランドでは、年々増加しているといわれるが、キリバス語話者は未だ目立った存在ではない。日常的には孤立した生活を営むなか、キリバス系の人々は、非熟練労働に従事して生活を維持しながら、SNSを活用して連絡を取り合っていた。人生儀礼、キリスト教会活動、週末のカヴァ飲み(男性)、子育てサークル(女性)に参加して、キリバス系住民間の紐帯を築いていた。さらにSNSにより、国境を超えて、キリバスやフィジーに住む親族との間で写真や文字情報を交換・共有していた。ランビ島出身女性は、ほかにもフィジーからオークランドにきたインド系住民に対して、親しみをもって接していた。このように、バナバ人・キリバス人の親族を核として、キリバス語話者の移民、さらにはフィジーからの移民といった属性を使い分け、共感を伴う相互関係を築きながら、新たな移住地での社会生活を営んでいることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、文献収集、実地調査、研究会開催といった調査・研究計画を遂行することができた。研究会では、感情に関わる語りという行為や、歴史と記憶について、議論を深めることができた。また、ニュージーランドにおける、キリバス系住民を対象として論じた研究は、従来ほぼ公表されていない。南オークランドの実地調査により、日常的にはほとんど存在さえ気づかれない「不可視の(invisible)」移民に関する、生活実態の一端を把捉することができた。これは、貴重な民族誌的情報と考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
共感・感情に関わる人類学および隣接領域の文献を収集し、文献研究を進める。今年度は新たに、歴史や口頭伝承に関する人類学的方法論にまで射程を広げて、理論的問題点を抽出することを試みる。関連分野の研究者を訪問して、学術的情報の蓄積に務める。また研究会を開催して、議論を深化させる。民族誌的事例を収集するために、フィジー都市部もしくはキリバス首都において実地調査を遂行する。可能ならば、フィジーのランビ島を訪問することを検討したい。
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Research Products
(1 results)