2018 Fiscal Year Annual Research Report
太平洋島嶼部における強制移住経験者の共感による連帯と排他性の生成に関する研究
Project/Area Number |
16H05688
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
風間 計博 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (70323219)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 文化人類学 / 共感 / 排他性 / 移民 / エスニシティ / 太平洋島嶼部 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、共感・感情に関わる文献収集ならびに、戦争・紛争、移住経験等に関わる歴史記憶に関する文献収集を行った。また、フィジーにおいて以下の2点について実地調査を遂行した。 1)首都郊外の太平洋系移民集住地区(ザンギリ)に在住するバナバ人・フィジー人世帯を訪問した。この地区の住民は、ヴァヌアツ系やソロモン系等、19世紀のブラックバーディングによってメラネシア地域からフィジーに連れてこられたプランテーション労働者の子孫が多くを占める。しかし少数ながら、キリバス系住民やバナバ人が居住しており、ランビ島からのバナバ人訪問者が一時滞在することを明らかにした。 2)首都にあるバナバ人メソジスト教会近辺のグラウンドにおいて、フィジー全国のメソジスト信徒集会が開催されている。ランビ島教区のバナバ人も参加し、賛美歌斉唱や踊り等を披露していた。フィジーのメソジスト教会において、バナバ人は、少数者として認知され、芸能に秀でた人々として認識されていることが推察された。これらの状況から、フィジー国家における新参の移民として、ネイションに取り込まれつつ、バナバ人の独自性を維持しようとする姿勢を看取することができた。 さらに、本研究に関わる研究成果の一部を国立民族学博物館共同研究会「オセアニア・東南アジア島嶼部における他者接触の歴史記憶と感情に関する人類学的研究」において口頭発表し、オセアニアおよび東南アジア地域を専門とする人類学者・歴史学者・文学研究者との討議を通して、考察を深化させることができた。成果に関連する論文を学術誌に投稿し掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、文献収集、実地調査、研究会における情報収集、論文執筆等、研究計画を順調に遂行することができた。 本年度の実地調査地であるフィジー郊外の移民集住地区では、メラネシア系のみならず、バナバ人・キリバス人が居住している。フィジー社会一般の目からは、日常的にはほとんど存在さえ気づかれない「不可視の(invisible)」移民に関する、生活実態の一端を把捉することができた。一方、フィジーの公的イベント(メソジスト全国集会やハイビスカス・フェスティバル)では、バナバ人は、踊り等芸能を披露することで、独自の存在感を示していた。実地調査によって、こうした貴重な情報を収集することが出来た。 さらに、本年度は研究成果の公表として、国立民族学博物館共同研究会において、口頭発表を行った。研究会では、代表者の発表に対する質疑応答に加え、インドネシアにおける虐殺事件の歴史語りに関する貴重な情報を得ることができ、多角的に議論を深めることができた。これらの成果を論文投稿して掲載された。フィジーの首都郊外の移民集住地区を対象とした研究は、従来ほとんど刊行されていないため、貴重な民族誌資料の公表と考えられる。また論文では、認知論的エスニシティ概念に関する考察を深めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、共感・感情に関わる人類学および隣接領域の文献を収集し、文献研究を進める。今後は新たに、東南アジアやヨーロッパの紛争、歴史、移民に関する人類学的事例研究にまで射程を広げ、理論的問題点の抽出を試みる。また、関連分野の研究者を訪問して、学術的情報の蓄積に務める。さらに、研究会を開催して、他地域の多様な事例研究の議論に参加し、本研究の考察を深化させる。 次年度もまた、民族誌的事例を収集するために、フィジー都市部もしくはキリバス首都において実地調査を遂行する。条件が許せば、アクセスの悪いフィジーのランビ島訪問を検討したい。こうした実地調査によって、民族誌資料を上積みする。 次年度は最終年度であるため、これまでの研究成果を総合的に検討して考察する。これらを踏まえ、書籍の執筆に向けて準備を整える。
|
Research Products
(3 results)