2016 Fiscal Year Annual Research Report
チェルノブイリ事故後30年から福島の心理社会的問題を考える
Project/Area Number |
16H05721
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
氏家 達夫 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (00168684)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
筒井 雄二 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70286243)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | SSI / 不安 / 情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究1:フィンランド、スウェーデン、ノルウェーを訪問し、16人の専門家(リスク知覚の専門家、放射線防護庁SSIの元職員など)にインタビューを行った。事故やその心理学的影響についての調査報告書など141本を収集した。これらの分析から次のことが明らかになった。①北欧諸国でも、放射能に対する不安が強かった。専門機関の出す情報に市民が不安を募らせる様子や混乱する様子が、いくつかの資料から浮かび上がった。②ノルウェーでは、政府・専門機関による情報開示が遅れたために、強い批判を浴びた(NOU, 1986)。③SSI報告書(87ー09)によると、スウェーデンのマスコミが取り上げたチェルノブイリ関連ニュース量が事故後4週で減少したことから、市民の不安がその頃には落ち着いたと思われる。④3ヵ国とも、心理的影響が長引いたという公式見解はないが、事故後短期間で市民の不安がなくなったとも考えにくい。なぜなら、事故から3年後の汚染地域での調査(Fahlen他, 1990)によれば、食習慣の変化が認められた;サミの居住地域では、事故後10年間、十分なモニタリングと説明が行われていなかったため、政府への不信が高く、心理的ストレスも継続していた;事故から半年たってからも、汚染データが出たことによる牛乳の売り上げ低下や、汚染の少ない地域への牛乳の買い出しというニュースが配信されていた。⑤市民の落ち着きには、SSIや食糧庁などが、知り得た情報を一貫して市民に伝え続けたこと、それらの機関が政治と独立な科学的機関であるという市民の共通認識も重要だったと考えられる。 研究2:事故当時の乳幼児の母親を対象に、事故後30年間の心理学的経験についての聞き取り調査を実施する予定であったが、今年度は、調査対象の絞り込みを行った(スウェーデンのイエブレ市、クラムフォルス市、ノルウェーのヴァルドレス市、サミの居住地)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北欧3ヵ国で、これまでわが国にほとんど知られていなかった多くの報告書を収集することができた。また、多くの専門家から聞き取り調査を行うことで、事故後の心理的ストレスの状況やそれが収束していったプロセス、逆に問題が継続した要因を明らかにするための情報を入手できた。研究2で予定していた被災者への聞き取り調査は実施できなかったが、心理学的影響を強く受け、それが継続した可能性の高い地域を絞り込むことができた。また、調査内容も確定した。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度は、今年度の調査で絞り込んだ地域で、事故当時乳幼児を育てていた母親を対象に聞き取り調査を実施する予定である。また、報告書等の収集対象をウクライナとロシアに拡大するとともに、グッドプラクティスの効果検証を行うために、来年度、ウクライナのキエフ国立大学とロシア危機管理研究所を訪問し、研究打ち合わせを実施する予定である。
|