2016 Fiscal Year Annual Research Report
Interaction of calving glaciers and lakes in Patagonia
Project/Area Number |
16H05734
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
杉山 慎 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20421951)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | カービング氷河 / 氷河湖 / パタゴニア / 氷河流動 / リモートセンシング / 環境変動 / 海洋物理・陸水学 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度にあたるH28年度は、(1)パタゴニアにおける現地観測、(2)衛星データ解析、(3)既存のデータを用いた解析を実施した。 (1) 新規に湖と氷河観測用の機材を選定調達し、チリのグレイ氷河、およびアルゼンチンのペリートモレノ氷河、ヴィエドマ氷河において野外観測を実施した。グレイ氷河の前縁湖では湖底地形測量、湖水温・濁度、サンプリングを行ったほか、水温と流速を通年測定するための係留系設置を行った。ペリートモレノ氷河では、インターバルカメラと水圧計によるカービング観測、ドローンを使った氷河末端測量を行い、長期稼働中の気象観測装置の保守を実施した。ヴィエドマ氷河では、近年氷河が後退した領域で湖底地形の測量を実施した。以上の観測は海外の研究協力者(チリ:Marius Schaefer、アルゼンチン:Pedro Skvarca)との共同で実施した。 (2) 人工衛星データ(Landsat、ALOS PRISM、ASTER)を収集し、グレイ氷河とペリートモレノの末端位置、表面標高、流動速度の解析を実施した。特にペリートモレノ氷河では、上記解析データから末端消耗速度を算出し、季節的な末端変動が末端消耗に駆動されていることを明らかにした(論文を出版)。またグレイ氷河における近年の末端変動が、湖底地形の影響を受けていることを確認した。 (3) ペリートモレノ氷河、ウプサラ氷河、ヴィエドマ氷河の前縁湖において過去に測定したデータを解析し、カービング氷河が流入する湖に特有な温度・濁度構造を解明した(論文を出版)。またペリートモレノ氷河の前縁湖については、同位体の分析結果を加えて解析を進めて、氷河末端の水中融解速度を推定することに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトで最も重要な観測項目である、氷河前縁湖への係留系設置に成功した。この作業は、機材の輸送と調査船の手配に関わる状況を検討して、当初予定していたアルゼンチン・ウプサラ氷河からチリ・グレイ氷河に係留系設置場所を変更して実施したものである。H30年度にはグレイ氷河から回収した機材をアルゼンチンに輸送して、計画通り二つの氷河で係留観測を実施する予定としている。 人工衛星データの解析によって、氷河変動に関わる基礎データを取得した。特にペリートモレノ氷河の解析では氷河末端位置変動と末端消耗量に明瞭な関係性を見出し、当初予定していなかった知見を得た。他氷河についても解析は順調に進んでいる。また過去に得られたデータの解析によって、カービング氷河前縁湖の温度・濁度構造の解明に成功した。その他、温度、濁度、同位体を用いて、氷河末端水中融解量の計算に成功した。 以上の研究成果は2本の英語論文として国際誌に公表され、うち1本は米国地球物理連合(AGU)のハイライト論文として紹介された。国際学会だけでも2度(国際雪氷学会、EGU)の発表で研究成果を報告しており、研究初年度としては想定以上の成果である。 以上の理由から、本プロジェクトは当初の計画以上に研究が進展していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、グレイ氷河に設置した係留系の回収を実施して、通年の湖水特性データを取得することが最重要事項である。機材が無事に回収されれば、それをアルゼンチンに輸送してウプサラ氷河に設置して通年の観測を実施する。これらの取り組みにおける懸念事項は、①グレイ氷河における係留系の回収時期と、②アルゼンチンへの輸送手段である。H29年3月に係留系をグレイ氷河に設置したため、通年のデータを取得するためにはH30年3月中旬以降の引き揚げ作業が必要となる。現地の状況(天候・氷山の状態・調査船チャーターの可否)によっては作業日数に余裕が必要となることを勘案すると、この引き揚げ作業はH31年度に実施することが望ましい。現地の研究者と連絡をとってH29年度中の作業可能性を精査し、必要があればなるべく早い段階で予算の繰り越し申請を行う。またアルゼンチンへの機材輸送にあたっては、現地研究者の協力による一時輸入許可が必要となる。チリからアルゼンチンへの輸送経路と合わせて、現地の研究協力者との連絡をとって検討を進める。 H28年度にグレイ氷河で採取したサンプル水の同位体分析、懸濁物質濃度測定を実施する。その後、湖水温度・濁度、湖底地形のデータと合わせて解析を進める。人工衛星データに関しては、特にASTERの標高データを用いた氷河表面低下の測定に力を注ぎ、湖底地形と急激な氷河後退との関係性を定量的に議論する。 以上の研究成果をまとめて国際誌に論文を発表するほか、国内外の学会で成果を紹介する。特にパタゴニアでの氷河研究に力を入れている欧州の研究者と連携をとり、国際的な研究枠組みへの参画と貢献を目指す。
|
Remarks |
チリ・トーレス・デル・パイネ国立公園にて一般向け講演会を開催。チリの研究機関、Centro de Estudios CientificosおよびGeoestudios Ltdaにて研究成果に関する講演を実施。
|