2016 Fiscal Year Annual Research Report
過去300万年間における東南極氷床高度の定量的復元とその変動メカニズムの解明
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16H05739
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
菅沼 悠介 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (70431898)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥野 淳一 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (00376542)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 南極氷床 / 無人ヘリ / 表面露出年代測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年観測されている南極氷床の質量損失およびこれに伴う将来的な海水準上昇は,人類的懸念である.しかし,南極氷床体積の70%を占める東南極氷床の変動メカニズムは未解明の部分が多い.我々はこれまで,氷河地形や堆積物の解析に,固体地球応答モデルの解析を組み合わせることで,過去の東南極氷床高度の復元を試みてきた.本研究でこれを発展させ,内陸山地に分布する氷河地形や堆積物を南北・東西にこれまでより広範囲でマッピングするとともに,大量かつ広範囲から岩石試料を採取し年代を精密測定することを通じて,過去300万年間における東南極氷床の高度や形状、体積の変動を定量的に復元する. この目的に従い,平成28年度は研究対象地域の事前調査と極域における無人ヘリ測量システムの開発を進めた.とくに無人ヘリ測量システムの開発ついては当初計画よりも進展しており,既に南極での無人ヘリを用いた高解像度地形情報取得についての論文を投稿し,出版された.年代測定については,新たに試料の前処理方法の改良を進め,今後の年代測定の効率化への道筋をつけることができた.また,Purdue大学との共同研究によって,パイロット試料の表面露出年代測定を行い,暫定的な年代値を得た.この結果は,本研究計画で提唱した仮説と整合的であり,東南極氷床高度が更新世以降に広範囲で低下したことが確認されつつある.さらに,氷河堆積物の風化プロセスについて,新たな知見を見出すことができ,こちらも論文を投稿した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究対象地域の事前調査と極域における無人ヘリ測量システムの開発については,前述のように当初計画よりも進展があった.とくに,無人ヘリ測量システムについては,GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用した極域での位置制御特性の解析や極低温での無人ヘリ運用方法も含めて,今後南極において使用するために充分なノウハウを得ることができた.この知見に関して,既に論文も出版された.年代測定については,当初予定していたニュージーランド核化学研究所に加えて,新たにPurdue大学のHarbor教授との共同研究を開始し,既にパイロット試料の年代測定を始めることが出来た.また,試料の前処理方法の改良も進めており,29年度以降に年代測定試料の前処理速度を格段に向上できる準備が整いつつある.また,氷河堆積物の風化プロセスについて,岩石学的なアプローチから新たな知見が得られた.この結果によって,将来的には無人ヘリを用いた定量的な風化度解析が可能となる.本結果については現在論文を投稿中である.
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Strategy for Future Research Activity |
第59次南極観測隊に参加し,昭和基地沿岸において約3ヶ月間の現地調査を実施する.氷河地形・堆積物の分布状況を詳細に記載した上で,無人ヘリを用いた精密測量と,岩石カッターを用いた精密な年代測定用試料の採取を行う.現地で観察した氷河堆積物・地形の特徴,特に露岩試料の表面形状,酸化度,および化学風化から風化・侵食度を評価することで,詳細な氷河地形マッピングを行う.また,湖沼での堆積物コアリングも予定している.年代測定については,新たに,高温超音波槽を導入することによって,年代測定の前処理速度を格段に向上させる.28年度に得られたパイロット試料の年代測定の結果を基に,固体地球応答モデル解析を開始する.とくに氷床モデルから求めた氷床形状(体積)を実際に即した氷床荷重として,固体地球応答モデルの入力に用いることで,これまでより精度良く氷床荷重の変化による隆起(アイソスタシー効果)を推定する.
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