2018 Fiscal Year Annual Research Report
トルコ古代都市テオスのディオニソス神殿に関する建築学及び考古学的国際共同調査
Project/Area Number |
16H05756
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
吉武 隆一 熊本大学, 大学院先導機構, 准教授 (70407203)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 明子 (中川明子) 徳山工業高等専門学校, 土木建築工学科, 准教授 (10442469)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ギリシア建築 / ローマ建築 / ヘレニズム / 王宮 / ペラ / アレキサンドロス大王 / 住居 / ペリスタイル |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、ギリシアとローマの二大文明の端境期にあたるヘレニズム期の建築が注目されている。とくにギリシアの伝統が強い東地中海の古代都市では、ギリシアの建築文化がヘレニズムを通してローマ時代にまで影響さしたとされ、盛んに調査研究がおこなわれている。こうした中、本研究ではトルコ古代都市テオスのディオニソス神殿の現地調査を行う予定であったが、調査直前になってトルコ政府の許可が下りないことが判明した。そこでヘレニズム遺跡として関連が深い、ギリシア古代都市ペラの王宮建物の建築調査を行うこととなった。 王の住まいである宮殿は、ヘレニズム期になって初めてギリシア世界に登場し、帝政ローマ時代にかけて発達した建築タイプの一つで、当該王宮はその起源の一つとされる。アレキサンドロス大王の故郷として知られるペラは、古代マケドニア王国の首都で、平原を見下ろすアクロポリスの丘陵には、総面積約8万平米の建物群(I~VII)が残る。H29年度の第一次調査では建物Iの遺構の現状平面図(縮尺:1/50)と、博物館所蔵の柱頭部材の調査を行った。H30年度の第二次調査では、考古局の発掘が進展したことから、改めてドローンを用いた最新の写真測量技術によってオルソ画像を作成し、CADで平面図を作成した。また1980年代の発掘時に保存されていた建物Iの建築部材が現場倉庫より見つかり、部材片を含め全65個の存在が確認できた。このうち19個の部材については、詳細な実測図(縮尺:原寸~1/10)を作成した。 資料の分析を進めた結果、建物Iは中庭(28×32.5 m)を四方から列柱廊が取り囲むペルスタイル形式であることが確認できた。博物館や倉庫等で発見された建築部材は、多様な形をした半円柱の部材が多く、その特徴から分類・整理を行った。このうち、博物館に残るドリス式柱頭は、各部の比例関係から前4世紀後半の製造であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度の第一次調査(H29年8月18日~9月17日、31日間)では、研究代表者1名、大学院生5名、研究協力者の松尾登史子氏の合計7名で現地調査を行った。調査のカウンターパートであるペラ考古局長のツィガリディス氏との協力関係が確立し、テッサロニキ大学の測量学者トクマキディスの協力も得られて、順調なスタートを切った。 H30年度の第二次調査(H30年8月6日~8月31日、26日間)では、研究代表者1名、大学院生3名の合計4名で現地調査を行った。第二次調査ではペラ考古局の発掘調査が進んだことから、ドローンを用いた写真測量でオルソ画像を作成し、これをトレースして平面図を作成できた(CADデータ)。また長年の発掘経緯に不明な点が多かったが、発掘日誌の解読、新たな建築部材の確認などによって、建物にまつわる資料が充実した。その結果、部材片58個を含む65個の建築部材を確認することができ、19個の建築部材を詳細な実測図や断面プロフィール図によって記録を作成できた。 これらの建築部材は、多様な形をした半円柱の部材が多く、その特徴から分類・整理を行った。とくに博物館に残るドリス式柱頭は、各部の比例関係から前4世紀後半の製造であることが判明した。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
H31年度は、科研費の最終年度であることから、王宮建物のうち、建物Iの調査に集中する。H30年度の発掘調査は、建築調査が終わった夏以降も継続され、11月まで続いたことから、遺構の平面図を追加するとともに、特徴的な建築部材の実測図による記録作成を行う。このために、H31年度も夏季休業中の約5週間に、代表者および学生による現地調査を計画している。当該王宮建物は、いくつもの建設フェーズがあり、遺構と建築部材がどのフェーズに属するのかを解明する必要がある。そのためには、ドリス式柱頭と同様の手法で、建築部材の年代推定が有効である。また、ローマ時代以後建物が略奪を受けて現存する建築部材がやや少ないことから、関連するペリスタイル形式の住居、王宮建物との比較を通して、建物の推定復元を行う。具体的には、イオニア式の付柱に付属する半柱頭は、建物上階の窓や、ペリスタイルのストア二階の列柱に用いられた例があることから、大まかながら原位置を推定する手立てとなる。このように、現地調査で得られるオリジナル資料に加え、関連建物との比較分析によって研究を推進させる。
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