2017 Fiscal Year Annual Research Report
エジプト、アブ・シール南丘陵遺跡のアクセスルートの解明と住民主体の遺跡保全
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16H05757
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| Research Institution | Higashi Nippon International University |
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Principal Investigator |
柏木 裕之 東日本国際大学, エジプト考古学研究所, 客員教授 (60277762)
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| Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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| Keywords | 古代エジプト / サッカラ / 石造技術 / 岩窟墓 / 組積造 / 木造技術 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、発掘がほぼ完了したアブ・シール南丘陵遺跡の次の段階として、遺跡に対する深い理解やその特徴、特質に立脚した保存整備を提示することを目的のひとつに掲げている。そこで丘陵遺跡自体のさらなる調査、資料化と並行して、周辺のサッカラ遺跡やナイル川氾濫域から当遺跡へのアクセスなど調査区域を広げた研究を推し進めることとした。研究代表者が所属する組織は、現在サッカラ地域の南と北の2箇所で発掘調査を実施しており、平成29年度は丘陵遺跡との比較の視点を持ちながら両遺跡の調査に従事した。
サッカラ北部では現地のエジプト事務所と合同で新たな調査を開始した。エジプト王朝時代全ての時代の墳墓が密集する重要な地区である。平成28年度に実施した悉皆調査と探査の結果を踏まえ、平成29年度は発掘地を精査し、一箇所について試掘を実施した。その結果、遺構は確認できなかったが、出土した遺物の中にこれまでその存在が不明とされていた新王国時代初期から中期のものが含まれ、墳墓が近傍に位置していることが強く窺われた。アブ・シール南丘陵遺跡では同じ時期に王の建造物が建てられており、関連性が注目される。
サッカラ南部には中王国時代と新王国時代の墓が密集し、20年以上に渡ってこの墓域の調査研究が続けられてきた。平成29年度の調査では新王国時代の中でも比較的古い時期の墓が発見され、更に未使用の可能性が高い墓も含まれていた。被葬者が決まる前に墓の造営が行われたことを示すとともに、墓の建造工程の痕跡を直接残す貴重な資料である。またサッカラ北部とほぼ同じ時期の墓であったことから、両者の比較考察も可能となり、当該時期におけるサッカラ地域全体の様相が明らかになることが期待できる。更に発掘調査で取り上げられた新王国時代の遺物の中には、ルクソール地域の傾向を強く窺わせるものが含まれており、両者の交流も興味深い課題として認識された。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は夏期に約2週間、アブ・シール南丘陵遺跡の補足調査を実施し、更に夏期および冬期にサッカラ北部、および南部の調査をそれぞれ約1ヶ月実施した。また比較調査としてルクソール地域の岩窟墓調査も行った。
現在のエジプトは落ち着きを取り戻しつつあるが、周辺地域は依然として不安定な状況にある。エジプトも散発的なテロ見舞われており、セキュリティが一層強化されている。このため、申請した発掘調査の審査にも多くの時間が要され、許可証の発行が予定していた時期に間に合わず、やむなく延期の決断をしたチームも複数みられた。そのなかにあって研究代表者が所属する調査チームは若干の遅れはあったものの全ての場所で許可が下り、調査を遂行することができた。これにより多くの有益な一次資料を得ることができたことから、研究の進捗状況は概ね順調と考えている。
特に新規に申請したサッカラ北部の調査は事務手続きの遅れにより継続が危ぶまれたが、試掘の許可が得られ、岩窟墓が想定される斜面を対象に発掘を行うことができた。この試掘では、斜面の自然岩盤を露出させることに成功し、岩窟墓の掘削が可能な強度を持ち得ていることが確認された。更に岩盤を覆う土砂は王朝末期から紀元前後のプトレマイオス朝時代に堆積したと考えられ、岩盤付近の遺構はこれより古い時代の層で覆われている可能性が高いことが知られた。すなわち近現代の大規模な盗掘被害に遭っていないことが予想され、当時の埋葬や生活習慣を示す資料が良好な状態で残されていることが期待される。次回以降の調査の見通しと確実な手がかりが入手できたという点で、研究の進捗状況は順調に推移していると判断してよい。
サッカラ南部の調査では、アブ・シール南丘陵遺跡と年代の近い遺構も検出され、比較研究を進める準備が整いつつある。本研究課題の達成に向けて着実に成果があがっていると考える。
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| Strategy for Future Research Activity |
サッカラ北部および南部で実施した調査を引き続き進める計画である。サッカラ北部の調査では平成29年度に台地斜面の試掘を行い、岩盤の検出と堆積状況の確認を行った。この結果を踏まえ、調査範囲を広げて本格的な発掘を行う計画である。試掘の結果は、完掘までに向こう数十年を要する一大墓域の可能性を示しており、短期的な課題と長期的な展望を探る必要が生じている。このプロジェクトで代表を務める金沢大学河合望准教授と綿密な連携を図りながら、将来的な展望や戦略を検討する計画である。
サッカラ南部の調査はこれまでに25回を数え、資料の膨大な蓄積がある。これまで中王国時代の墓について掘削工程の復元を進めてきたが、新王国時代にも対象を広げ、アブ・シール南丘陵遺跡で発見されたイシスネフェルト王女の岩窟墓との比較考察を進める予定である。
アブ・シール南丘陵遺跡では世界最古級の石造建築が発見されている。古代エジプトに本格的な石造建築が誕生、成立する経緯を伝える資料として貴重である。木造を模った石の柱などから、永遠性を願って、腐る木を腐らない石に置き換えたという説を耳にすることがあるが大いに疑問である。この問いに答えることが可能な立場にいることを考え、今後は木造建築の技術的な研究にも注力し、木造、煉瓦造、石造の史的関係性を明らかにしていきたい。
古代エジプトで木造建築が完全な形で見つかることは望めないが、継ぎ手や仕口など木造技術を用いた木製品は、木棺や家具、箱など豊富に発見されている。アブ・シール南丘陵やサッカラにおける一連の墓の調査でもこうした木製品は数多く出土しており、木造建築にも通底する技術として研究を行いたい。また所属する組織では木造船の調査研究も行っている。全長40mを超える大型船で、木造建築と呼んでも過言ではない。この調査を通じて木造技術について知見を深め、史的変遷の研究を進める計画である。
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