2018 Fiscal Year Annual Research Report
イボタケ類菌糸マットによる北方林のポドゾル形成の検証とその微生物群集の機能性解析
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16H05786
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮本 敏澄 北海道大学, 農学研究院, 講師 (00343012)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋床 泰之 北海道大学, 農学研究院, 教授 (40281795)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 土壌微生物群集 / 菌糸マット / 北方針葉樹林 / ポドゾル / イボタケ類 |
Outline of Annual Research Achievements |
イボタケ類の菌糸マットの消長とポドゾルの形成過程への影響を明らかにするために昨年設定した固定調査地において、イボタケ類の菌糸マットの年間成長量、土壌有機物への作用、イボタケ類の子実体の窒素及び炭素の安定同位体比、菌糸マットが土壌中の窒素及び炭素の安定同位体比(δ15N, δ13C)に与える影響について調査した。 昨年度はイボタケ類の合計5か所の菌糸マットについて、その先端部の位置変化を経時的に調べるために菌糸マット縁部にマーキングの杭打ちを行った。そこで1年後に菌糸マット縁部について外側への移動距離を測定したところ、平均で約2 cmの拡大が認められた。また、全体で25か所の測定点の中で9か所については菌糸マット縁部の内側への衰退あるいは消失が認められた。 昨年度に設置したリターバッグの一部を1年後に回収し、菌糸マット上と菌糸マットのない土壌中に設置したリターバッグに封入されたリターの重量と窒素含有量の比較を行った。その結果、リターの重量に違いは認められなかったものの菌糸マット上に設置したリターバッグ内には菌糸の侵入が観察され、窒素含有量がわずかに上昇していることが明らかになった。 本調査地で菌糸マットを形成するイボタケ類の子実体と、周辺で発生が認められた様々な菌類の子実体について窒素及び炭素の安定同位体比を比較した。その結果、イボタケ類の子実体は他の菌根性の菌類と同様に腐生性の菌類よりも比較的高い窒素の安定同位体比を示した。 菌糸マット(菌糸マット縁部、縁部から菌糸マット内側1m)の直下の鉱質土壌と、菌糸マットのない地点で同様の土壌層位(有機物層直下)の鉱質土壌では窒素の安定同位体比が異なることが明らかになった。この現象は菌糸マットが消失したと推定される地点でも同様の傾向が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、フィンランドでイボタケ類の子実体発生状況が極めて悪かったが、これは記録的な夏季の高温と乾燥によるものと思われる。そのため少なくとも固定調査地の老齢針葉樹林内やその周辺地域でもわずかに2子実体を採集することしかできなかった。しかしながら、昨年度に設定した固定調査区と、そこでマーキングしたイボタケ類の菌糸マットにおいて、菌糸マット縁部の位置測定や、リターバッグ及び土壌のサンプリングとデータロガーによる地温データ回収は順調に進められた。その結果、菌糸マットの拡大あるいは縮小の速度やリターの分解と養分動態を明らかにするための手法が計画通り有効であることが確認された。菌糸マットの年間平均成長速度は過去の研究報告よりもやや低い数値が得られ、マットの外側へ全く移動しないかあるいは減退、消失するなどの衰退を認めることができた。さらに、イボタケ類の菌糸マットの存在する場合の土壌状態や植生を詳細に調査することによって、かつて存在した菌糸マットが消失した痕跡地を推定することができた。土壌の窒素の安定同位体比は菌糸マットの存在する場合と存在しない場合で異なったが、菌糸マットの痕跡地では菌糸マットと同様の傾向が認められた。これらの結果から、菌糸マットの消長を定量的に測定する方法が構築されつつある。これら野外におけるイボタケ類の菌糸マットの分布やポドゾルの形成過程への影響を明らかにするための技術・方法的な課題への対策は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
既に固定調査区を設定したサイトを含め新たなサイトについても引き続きイボタケ類の菌糸マットを探索し、菌糸マットの分布、菌糸マット直下の土壌微生物、土壌調査を行う。これまでの研究で、イボタケ類の菌糸マットとその直下の微生物群集の特異性と、菌糸マットの消長についての調査方法はほぼ確立されたが、菌糸マットの性質や消長との関連性を明らかにするためには、複数の地域より得られたデータを基に解析する必要がある。これまでイボタケ菌糸マットの分布を調査することができたのはフィンランドの1地域に限られていることから、フィンランドの他の地域や、これまで存在が知られているスウェーデン、ノルウェーの森林および北海道内および長野県の針葉樹林においてイボタケ類の菌糸マットと菌糸マットの痕跡地を探索し、それぞれの分布密度や面積を調査する。さらに各地の菌糸マットと菌糸マットの痕跡において、土壌微生物相(真菌類、真性細菌、古細菌)、菌バイオマス、土壌中の有機酸含有量、シュウ酸カルシウム結晶の沈積が認められるかどうか、菌糸マット直下の土壌中の窒素の安定同位体比等を明らかにするために、微生物および土壌のサンプリングと分析を行う。
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Research Products
(1 results)