2016 Fiscal Year Annual Research Report
Spatial distribution of ASP toxin-producing diatom in Asian waters and eco-biological role of its toxin production
Project/Area Number |
16H05797
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
小瀧 裕一 北里大学, 海洋生命科学部, 特別研究員 (30113278)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原口 浩一 第一薬科大学, 薬学部, 教授 (00258500)
安元 剛 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (00448200)
小檜山 篤志 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (60337988)
林崎 健一 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (80208636)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 記憶喪失性貝毒 / ドウモイ酸 / イソドウモイ酸 / 珪藻 / Nitzschia / 黒潮 / pH / 塩分濃度 |
Outline of Annual Research Achievements |
以下に実施計画ごとの実績を示す。 実施計画(A) N. navis-varingica分布定点調査:フィリピン・ルソン島中部のBolinaoと沖縄県において同種の毒生産と環境水質変化の関係を考察する目的で、同種生息環境水質の日内変動を調べた。特にBolinaoの河口では、同種の生息域5地点で多項目水質計を用いて川底から水面までの水質(水深、水温、塩分濃度、pH、酸化還元電位、酸素要求量)を連続測定し、現在解析を行っている。実施計画(B)暖流に沿う新たなN. navis-varingicaの分布調査:これまで高度に記憶喪失性貝毒ドウモイ酸を含むThorny oysterが確認されていたフィリピン・ルソン島Masinloc湾において新たな小河口から同種の分離に成功した。また黒潮の出発点に近いルソン島北東部において同種の分布調査を実施し新たに同種を分離した。これまで未調査であったマレーシア半島西岸(インド洋側)でも同種の分布調査を実施し、新たに同種を分離し記憶喪失性貝毒の生産能を確認した。またボルネオ島北西部Kuching沿岸においても同種の分布調査を実施、現在確認作業中である。実施計画(C)同種遺伝子の地域比較:同種はrDNA ITS領域比較により2つのタイプに分けられるが、新たに分離された同種もどちらかに属していた。実施計画(D):新たに分離した同種の毒組成はドウモイ酸-イソドウモイ酸のタイプがメジャーであった。実施計画(E):詳細なタイムコース培養実験により毒生産の最終段階はイソドウモイ酸A経由であると推定した。実施計画(F):同種の分布域に生息する貝類の毒性はほとんど検出限界未満であったが、巻貝Vittina spには低いながらも毒化している検体が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施計画(A)~(F)に関して、台湾を除けばおおむね予定通り実施できた。 特に(A)の調査ではフィリピンのBolinaoにおいて多項目水質計を使用しての水質測定を実施できたが、解析に手間取り現在進行中である。他の定点では、pH、塩分、水温の日内水質変化調査を実施できた。ほとんどの定点では、予想通り潮位の変化により塩分濃度は大きく変化したがpH変化は大きくなかった。pHの日内変化が大きい環境のN. navis-varingicaの毒組成はドウモイ酸が多くなるという予備調査と培養実験の結果を裏付けるデータが得られたが、今年度は同時に採集した同種珪藻の培養実験が日程的な関係で不調で、再試行を余儀なくされ、毒組成分析確認の一部は継続中である。 実施計画(B)においてはこれまで未調査だったフィリピン・ルソン島東北部沿岸において調査を実施、同種の分布を確認できた。同種の黒潮による分布拡大を検証するため当初黒潮出発点に最も近い同島東岸で調査を実施する予定であったが、調査前の台風の影響でアクセスが困難なことから次善の策として選択したものである。また、Thorny oysterが高度に毒化するフィリピン・ルソン島Masinloc湾の河口で新たにN. navis-varingicaを分離するなど、本項目では予想以上の成果が得られた。 実施計画(C)~(F)の項目についてもおおむね順調に振興したが、年度終盤には研究代表者の新たな所属先への分析機器の移転準備等で、毒の分析が一部未了に終わった。培養・収穫後に未了であった試料の分析は、現在の所属先で実施中である。 今年度は調査に主眼を置いているうち終盤にかかってしまい、毒の分析未了の試料が一部でたことから、論文や学会発表に至らない部分があったが、総合的に見ると、本研究の進展状況はおおむね順調と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度未了に終わった貝やN. navis-varingica培養株の毒分析を完全に終了し、環境水質や遺伝子の違いとの関係を考察する。 実施計画(A) N. navis-varingica分布定点調査:フィリピン・ルソン島Bolinaoや沖縄での環境水質調査を継続する。今年度は昨年度未了だった台湾における定点環境水質調査を実施する。実施計画(B) 前年度までの未調査地域における同種の分布調査:黒潮の出発点に近いフィリピン・ルソン島東岸の河口域におけるN. navis-varingica調査を実施し、分布を確認すると共に、黒潮の影響から遠い太平洋島嶼やインドネシアに加えて、これまで分布が確認されていない秋田、青森沿岸等においても同種の分布再確認調査を行う。非分布地域を明らかにすることにより海流による分布拡大機構を補足・強化することができる。実施計画(C)同種の遺伝子の地域比較:新たに分離された株について調べると共にこれまでの結果と総合的な比較を行い、株のタイプを考慮に入れた上での分布拡大機構解明を行う。実施計画(D)同種の毒組成の地域特性を調べるだけでなく、同地の環境水質特性(pHや塩分濃度の変化特性)と比較検討することにより、同種の毒組成が環境水質の変化に対応して変わってくることを検証する。また、毒合成の最終段階のみならずさらにさかのぼって中間体を予測・追求することも試みる。実施計画(E)同種による貝類の毒化に関しては、一般に毒化の程度は低い結果がこれまで得られているので、N. navis-varingica分布域の貝類を広く調べると共に毒化の程度が高いフィリピンのThorny oysterに着目してその毒化機構を検討する。
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