2017 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナム水田域における収量・品質向上と両立した環境配慮型水・物質管理の提案と実践
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16H05799
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 公人 京都大学, 農学研究科, 准教授 (30293921)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀野 治彦 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (30212202)
大西 健夫 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (70391638)
米村 正一郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主席研究員 (20354128)
大浦 典子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 室長・調整監・技術支援センター長等 (50354022)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水田水管理 / 温室効果ガス / 水・物質動態 / ケイ酸 / ベトナム |
Outline of Annual Research Achievements |
アジア水田地域での「収量・品質向上と両立する環境配慮型節水管理」のあり方を提案することを大きな目的とし,具体的には,温室効果ガスの排出抑制と節水に有効と考えられる間断灌漑技術(AWD: Alternate Wetting and Drying)を地区レベルで実践するために,水管理組織による水路内小型ゲートの管理の可能性を検討した.加えて,収量と品質向上のための適切なケイ酸管理に関する実証試験を行った. 現地調査では,ベトナム紅河流域の低平地水田地域において,一地区を,AWDを行わない従来型水管理区,弱い乾燥状態にするAWD実施区,強い乾燥状態にするAWD実施区の3つの区に分割し,個々の圃場レベルでの農家に水管理に任せるのではなく,水管理組織が水路内に設置した複数の小型ゲートの管理を行うことによる水配分の制御が可能かどうかを検討した.また,各区に観測圃場を設定し,湛水深,土壌水分量,メタン・亜酸化窒素の発生量,酸化還元電位などの現地測定を行った.ケイ酸管理に関しては,複数条件下での圃場試験を行って収量や登熟歩合への影響を測定した. その結果,地区レベルの間断灌漑管理は,必ずしも初めに想定した湛水深にならないことが明らかになった.これは,ゲートの管理による地区内の水の流れを管理者が把握しておらずゲート管理が試行錯誤であったこと,地区内水田圃場の標高が不均一であること,気象要因(とくに降雨量)に湛水深が影響されることが原因と考えられる.ゲート管理による地区内水位の制御に関してのモデル化,ゲート管理のマニュアル化が必要であることが確認された.ただし,AWDにより非湛水状態が長期化した場合には,メタン発生量が抑制された.ケイ酸管理の実証試験より,ケイ酸施肥条件下では,栽植密度の低下による1株あたり収量が増加する傾向がみられた.最適な栽植密度は慣行よりも低い可能性があることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本調査対象地では,冬春作と夏秋作のコメの二期作を行っており,3年間にわたって計6作期のデータを得ることができた.得られた観測データより,湛水深と温室効果ガスの影響因子である土壌の酸化還元電位との関係,酸化還元電位と温室効果ガス(とくにメタン)の関係を明らかにすることができた.これらの関係から,メタン発生抑制を意図する場合,非湛水状態になってから次の灌水までの期間は少なくとも4~6日間より長くすることが望ましいことが導かれた.ケイ酸管理については,ケイ酸施用を行うと,収量が最大となる栽植密度が推定できることが明らかになった. なお,これらの成果は,平成29年12月12日にベトナムハノイのVAWR(Vietnam Academy for Water Resources)において開催された研究者,行政,水管理組織を交えたシンポジウムにおいて,共同研究者であるIWE(Institute for Water and Environment),キタイ設計(株)とともに発表した.同12月13日には,現地観測を行った地区において,農家ミーティングを行い,成果を報告するとともに,環境配慮型水管理の重要性をアピールした.また,平成30年1月12日に,農林水産省において,気候変動枠組条約関連セミナー 第3回「民間企業による農業部門の海外技術協力(ベトナムAWD)」の一部として,「ベトナムフンエン省におけるAWDによる節水及びGHG削減に関する研究成果」と題して講演を行い,行政との情報交換を行った.農業においては,気候変動に対する適応策だけではなく,緩和策も重要であることを確認し合った.
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Strategy for Future Research Activity |
現地調査自体は平成29年度で終了した.最終年度となる平成30年では,これまでに得た現地観測データの解析をさらに進めるとともに,温室効果ガス発生に及ぼす影響やその抑制のための水管理の基礎的な知見を得るための室内実験を行う予定である.また,現地観測の結果より,地区内の水路内小型ゲートの管理に関するマニュアル化が必要であることがわかったため,地区内の水路の水理計算を行う. 具体的には,水管理による土壌水分制御,土壌水分制御による酸化還元電位の制御,さらに,これによるメタン・亜酸化窒素の放出量の制御に至る物理・化学・生物学的過程を現地データと室内試験データよりモデル化する.水路内ゲートによる水管理に関しては,不定流解析を行い,ゲート管理によるブロックローテーションに基づいたAWD管理の可能性を検討する.ケイ酸管理については,未測定の土壌中ケイ酸濃度を測定し,これと合わせて,最大収量を得るためのケイ酸施肥と栽植密度を提案する. 最後に,得られた結果をベトナム側研究機関と共有し,今後の水田水管理のための知見として論文などの形で公表する.
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Research Products
(2 results)