2017 Fiscal Year Annual Research Report
インドネシア伝統的糖尿病足潰瘍管理法の感染制御と治癒効果に関する海外調査
Project/Area Number |
16H05852
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
須釜 淳子 金沢大学, 新学術創成研究機構, 教授 (00203307)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
真田 弘美 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50143920)
大江 真琴 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任准教授 (60389939)
仲上 豪二朗 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (70547827)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 糖尿病 / 足潰瘍 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、糖尿病足潰瘍の治癒を遷延化させる要因の一つである感染を制御する新たな方策を求めて、従来の感染抑制作用を有する外用薬や抗菌作用を有する銀含有創傷被覆材剤とは異なる創傷管理が普及しているインドネシアにおいて調査を行い、その創傷治癒効果を検証することを目的にしている。創傷治癒効果は、肉眼的所見の変化、創面および創滲出液性状の分子生物学的変化、創面のバイオフィルムの存在から判定する。 平成28年度はインドネシアカリマンタン島・ポンティアナックにある創傷ケア専門クリニックにて調査を実施した。薬剤や創傷被覆材とは異なる局所管理法として、蜂蜜、ならびにナマコ抽出物をガーゼに浸透させ創部を被覆していた。41名の糖尿病足潰瘍の創部を2週間毎12週間まで追跡調査した。患者の平均年齢は蜂蜜群56.2±9.2歳、ナマコ抽出物群52.2±12.0歳であった。性別(男性)は、蜂蜜群42.9%、ナマコ抽出物群28.6%であった。糖尿病のコントロールを示すHbA1cが10以上の者は、蜂蜜群81.0%、ナマコ抽出物群85.7%であった。糖尿病足潰瘍状態を示すスコアの中央値は、蜂蜜群30点、ナマコ抽出物群27点であった。両群の創傷治癒日数をカプラン・マイヤー法で比較した結果、有意差はなかった(p=0.79、ログランク検定)。 平成29年度は、創面ブロティング法を用いてニトロセルロースメンブレンに付着させた滲出液中の分子生物学的解析、創面のバイオフィルム存在の検討のため細菌の細胞壁を構成するムコ多糖類の染色を行った。さらに、創状態がより重症の症例に対する層化解析を行った。また、蜂蜜、ナマコ抽出物以外の局所管理法ついての調査を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
創面ブロティング法にて分析したのは局所炎症反応を示すTNF-αならびに創部肉芽組織を破壊することで増生を抑止するMMP-2、MMP-9である。免疫染色するためにこれら3種のたんぱく質の一次抗体を使用した。その後PBSによりメンブレンを水和させ、化学発光基質endogenous alkaline phosphateならびにendogenous peroxidaseにより染色した。目標タンパク質であるTNF-α、MMP-2、MMP-9を検出するために二次抗体を使用した。その後、化学発光検出専用撮影装置にてデジタル画像データとして保存した。画像から目的とするバンドの発光強度を数値化して定量分析を行った。 創面のバイオフィルム検出を以下の方法で行った。創面の滲出液を吸着させたニトロセルロースメンブレンをPBSで水和させた。次に定法に従いreversible protein染色キットを使用して、総たんぱく質量計測のための脱色を行った。次に、細菌の細胞壁を構成するムコ多糖類を同定するためにRuthenium redを使用しメンブレンを染色した。バイオフィルムの判定は質的に染色反応陽性(バイオフィルムの存在あり)、染色反応陰性(バイオフィルムの存在ない)を2名の研究者で実施した。 昨年度収集した糖尿病足潰瘍のメンブレンを用いて、調査開始時から4週間後のバイオフィルム同定状況の変化を分析した。蜂蜜群は、陽性から陰性に変化した創は10件中9件、ナマコ抽出物群は10件中7件であり、両群に有意差はなかった。また、ナマコ抽出物群では調査開始時と比べ8週、10週、12週のTNF-αが有意低下したが、蜂蜜群においては有意な低下はなかった。MMP-2、MMP-9は両群とも調査開始時と同等の強度で推移した。 平成29年8月より、創状態が悪い糖尿病性足潰瘍として、創周囲に浸軟がある創を対象に調査をさらに継続した。平成29年度末で、蜂蜜群20名、ナマコ抽出物群18名となっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年8月から開始した、創状態が悪い糖尿病性足潰瘍として臨床調査を継続し、創面ブロティング法にて収集するTNF-α、MMP-2、MMP-9を分析する。また、創面のバイオフィルム検出も行う。 さらに、カリマンタン島の創傷クリニックにおいて、感染を伴う糖尿病足潰瘍の創部に使用するナツメヤシ(デーツ)の創傷治癒効果を前向きに調査する。ナツメヤシ(デーツ)は食用としてインドネシアに広く普及し、血糖コントロール作用があると報告されている。創傷の局所管理においては、ナツメヤシ(デーツ)を粉末にしたものを蜂蜜と混ぜ合わせて創傷に塗布するという方法が使用されている。しかし、その使用は経験によるもので、感染を伴う糖尿病足潰瘍の創状態にどのように影響するか、前向きに観察した報告はない。 方法:カリマンタン島の創傷クリニックに通院する糖尿病足潰瘍を有する患者で、ナツメヤシ(デーツ)にて局所管理を受ける患者ならびに他の方法(蜂蜜、海鼠)にて局所管理を受ける患者を対象とする。前向きに2週間毎、12週間まで追跡する。調査項目は、糖尿病足潰瘍状態評価スケール、wound blotting法によるマトリックス分解酵素MMP-2、MMP-9、炎症性タンパク質 TNF-α、創面バイオフィルムである。調査実施国・地域にはジャカルタ経由でカリマンタン島・ポンティアナックまで空路を利用する。分析:これまで収集した蜂蜜による局所管理、海鼠による局所管理、ナツメヤシ(デーツ)による局所管理を比較し、インドネシアで利用されている伝統的局所管理法の糖尿病足潰瘍の感染制御について考察する。
|