2016 Fiscal Year Annual Research Report
高感度同位体追跡と分離培養で拓く地下圏炭素・エネルギー動態の基軸をなす新生物機能
Project/Area Number |
16H05886
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
堀 知行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 環境管理研究部門, 研究グループ付 (20509533)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 環境分析 / 深海環境 / 地球化学 / 環境 / 微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、地下微生物-鉄鉱物相互作用を利用した集積・分離培養法に加え、申請者自身が近年開発した未培養微生物機能同定法「超高感度Stable Isotope Probing(SIP)」と次世代シークエンサーを用いた標的型RNA-seq法を組み合わせて活用することで、地下圏炭素・エネルギー動態の中核微生物群(鉄還元とカップリングする嫌気的メタン酸化菌と嫌気的酢酸酸化菌)の種類・分布・新機能を解明する。海底地下コア試料の単位体積あたりの微生物数は、海底下深度10 mから1kmの範囲においては陸上土壌の3から5オーダー少ない値で存在するが、国際深海掘削IODP337で取得した大深度コア試料(1kmから2.5km)ではさらにその値が激減する。得られる微生物菌体量の乏しさを打開するために、解析スケールや分析感度を上げるのはもちろんであるが、本研究では海底地下試料および陸域地下試料を直接解析するのではなく、第一ステップとして地下圏微生物-鉄鉱物相互作用を利用した微生物集積培養系を構築し、その中から中核微生物候補群を抽出する。2016年度の研究成果として、メタンまたは酢酸と結晶性酸化鉄を基質とする集積培養を継続し、その中の一部の集積系で結晶性酸化鉄の還元による色の変化が観察された。次世代シークエンサーを用いて微生物種を大規模に同定した結果、メタン培養系では、鉄還元型の嫌気的メタン酸化菌として2016年に報告されたMethanosarcinales目アーキアに加えて、未培養・新門に属する新規細菌が優占化することを見出した。また酢酸培養系では、Firmicutes門に属するこれまでに鉄還元能が報告されていない複数種の細菌が集積されていることが明らかになった。さらにこれらの標的微生物群を分離培養するため、集積度の高い培養系を対象として、溶解性鉄を用いた培地による限界希釈培養を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メタンによる集積培養系において、鉄還元型の嫌気的メタン酸化菌として2016年に報告されたMethanosarcinales目アーキアに加えて、新規細菌の集積系が得られたことは極めて大きな進展として評価できる。さらに酢酸による培養系では、陸域地下圏で主要な既知の鉄還元微生物とは異なる系統の細菌(複数種)が集積されており、この点も特筆すべき成果である。これらの集積培養系を対象として、限界希釈法による分離培養試験、超高感度SIP法による機能解明試験に着手しており、よって研究が概ね順調に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに構築した微生物集積系(特に、鉄還元型の嫌気的メタン酸化菌Methanosarcinales目アーキアや未培養・新門に属する新規細菌が優占化したメタン集積培養系やFirmicutes門に属する細菌が集積された酢酸集積培養系)を対象として標的微生物の純粋分離または安定な複数種培養系の構築を試みる。化学分析では集積過程を追跡するのは困難であるため、次世代シークエンサーによる網羅的微生物種同定法を適用することにより培養試験の成果取得を最大化するよう努める。さらに申請者の独自技術である超高感度 SIPを適用し、分離培養が困難な標的微生物群の機能解明を試みる。これらの研究では次世代シークエンスを多用するが、その供試試料の調整法、分析機器の運転・管理法、大規模塩基配列データ解析用パイプラインが最適化されており、早急な実験データの取得が可能である。さらに成果結実の加速化を図るため、専門の実験補助員の雇用を行う予定である。
|
Research Products
(6 results)