2017 Fiscal Year Annual Research Report
19-20世紀のフランス哲学の動向に対する古代哲学研究の影響に関する研究
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16H05934
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
近藤 和敬 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (90608572)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 古代哲学史 / 古代科学史 / タンヌリ / ミヨー / エピステモロジー / 実証主義 / フランス哲学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究計画に基づき、ポール・タンヌリおよびガストン・ミヨーの著作の分析および彼らの研究活動の背景となる文化的事象、社会的文脈について調査を行った。その結果、19世紀末、フランスの政体が第三共和政に移行し、そのなかで政教分離の政治的動きが起こったことと、コント以来の実証主義の系譜が、ドイツ文献学との影響関係のなかで、フランスの歴史研究の分野に一定の影響を与えるようになったことが分かった。またタンヌリによる古代および近代の科学史研究はこのような雰囲気のなかで形成されたものであり、それが後続するガストン・ミヨーやアベル・レイへと受け継がれることで、実証的な科学史の研究文脈が形成されていったことが分かった。実証主義の動きは、科学史のみならず、社会学や心理学その他においてもこの時期の重要な動因となっているが、ここでの実証的な科学史はそのような大きな流れのなかの一つの動きと位置付けることができる。 今後はこのような実証的な科学史研究が、いわゆるエピステモロジーと呼ばれるような哲学の分野とどのように関係し、影響を与え合ったのかということを明らかにする必要があるが、この点については次年度以降の研究において明らかにすることとしたい。 またこのような実証的な古代科学史、古代哲学史を研究するというモチベーションが、19世紀前半から続くクザン派によるエクレクティスムを批判するという動きに基づいていた可能性があり、この点については特にエミール・ブトルーによる哲学史研究の著作を分析するなかで次年度以降、明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画にたいして若干の変更があり、とくに19世紀の政治的文化的背景およびドイツ哲学の動向との関係についての分析を増やす必要があったが、大きな変更が必要ではないことがその理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究計画に基づきつつ、前年度の研究によって明らかになった19世紀のドイツ哲学における古代哲学研究のフランスでの受容についての解明に一定の期間をあてる。また古代哲学の実証主義的研究を行う知的文脈の背景に、第三共和政期の政治的方向性としてのライシテがどれほど影響を与えているのかの調査も引き続き行う。また、ドイツ文献学とフランス実証主義の交差があったのかどうかについても、前年度に引き続き、タンヌリおよびブトルーの文献についての調査を中心に解明作業を行う。 これらの文脈背景の掘り起こしとともに、古代哲学研究というスタイルがどのように確立され、それによって何が問題にされ、同時代の哲学にたいしてどのように受け取られたのか、ということをブロシャールの文献とミヨーの文献に示される研究スタイルの比較によって行う。あらかじめ予想される解釈軸は、自然科学(実証科学)と道徳と宗教の三者の力線のあいだでの配置であり、意見形成の布陣である。この解釈軸にたいする意見形成において、古代哲学の特異性がどのように利用され、それぞれの主張を支えることとなるのかを解明することが、今年度の主たる課題である。 本年度はこの課題に答えるために、主に資料収集と分析、および数回の研究会による意見交換を計画している。
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Research Products
(3 results)