2016 Fiscal Year Annual Research Report
世界を目指すサッカーコーチのための英語力向上プログラム
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16H05942
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西条 正樹 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (80706614)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海外サッカー留学 / 特定目的のための英語教育 / ジャンルベースアプローチ / スポーツコーチング技術 / 選択体系機能言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨今、海外サッカー留学生は、年間約1,500名にものぼる(辻, 2012)。そこで、申請者は、英語圏へのサッカープレーヤーおよびコーチング留学を見据えている日本人を対象とした英語力向上プログラム開発を研究対象としてきた。2016年度は、オーセンティック教材を作成するために、実際に英語によるサッカー指導を行っているプロコーチのDan Gaspar氏(イラン代表GKコーチ)、今矢直城氏(株式会社Naocastle)の協力の元、実際のコーチング言語データを取得し、選択体系機能言語学の枠組みで分析を行った。 Gaspar紙のコーチング手法からは、以下のような教育的示唆が得られた。1.選手に即座に動作を行ってもらう場面では、命令法を用いる。2.叙法構造を確実に形成することで、コーチとしての自分の意図を明確にする。3.選手に指示をする場面では、命令法のみではなく、時には叙述法を使うことによって、「技術の説明」の意味合いも含めることができる。 また、今矢氏のコーチング手法に基づくならば、英語使用時における迅速なコーチング実践をするためには、トレーニング状況に応じた適切な叙法構造の構築(動作主と動作内容の明暗示)が不可欠であることが分かってきた。例えば、今矢氏は、動作に関する指示を与える際には、2つの文法パターンで指示を出していた。相手に命令を与える発話機能を持たせるための典型的具現パターンであるimperative mood(命令法)と非典型的具現パターンであるdeclarative mood(叙述法)である。この使い分けは、トレーニング中の場面(インプレー中かアウトオブプレー中か)に応じて、行っているという結果が導き出された。また、今矢氏は、モダリティを使い、自分の陳述にグラデーションを与えることで、選手たちにプレッシャーを感じさせないような要求の仕方をしていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2016年度は、モデルコーチのコーチングテクストを選択体系機能言語学の観点から分析し、オーセンティック教材を作成することを主眼に置き、GBAの実践は2017年度以降に実施の予定だったが、研究が進み、GBAを使用した予備調査を行うことができた。予備調査では、オーセンティック教材を作成、使用するだけではなく、GBAのもう一つの特徴である足場(scaffolding)理論の観点を重点的に調査した。足場理論とは、Vygotsky(1987)のZone of Proximal Developmentの考えに基づき、対象言語使用域(レジスター)における言語使用マスターが実践共同体(CoP)の中で、学習者に足場(スキャフォルディング)を提供しながら自立学習を促すための学習サイクルを構築しようとするものである(Burns et al, 1996)。 予備調査は、立命館大学言語教育センターが主宰する外国語コミュニケーションルーム(大阪いばらきキャンパス)で「英語で楽しむスポーツ(サッカー)」を実施し、スポーツ(サッカー)という共通したキーワードを元に集まった学習者たちが、GBAの教授法に対してどのような感想を持ち、CoPがどのように形成されていくかを観察した。セメスター開始直後,中間,後半の3回に渡り、参加した学生を対象に、アンケート、インタビュー調査を実施した。 データ分析から、「サッカーを通じて英語学習をする」というコミュニティに学習者が参加することで、学習者同志の相互作用から、New comerの学習者が英語学習(特にspeaking)に持っている苦手意識を変えていくことができる可能性があることが示唆された。4月からの本調査においても、すでに本取組を経験した学習者らが最初からコミュニティの中に入ることで、New comersたちに上記のように良い影響を与えることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は、将来海外でサッカープレーヤー・コーチを目指す立命館大学の自主ゼミ生10名を対象に、GBA実践指導を行う。その後は、以下の観点から学生たちの学習状況を調査し、GBAの効果を検証する。
1.成果基盤型評価法による定着度調査 (a)GBAの効果を見るために、被験者の言語データを情報構築パターン, 言語使用域の観点から評価基準を作成する。また、「スポーツコーチング」の特性を考えた場合、言語活動のみならず、実際の身体活動も評価項目に入れることがより正確なタスク評価につながる。故に、双方を同時に評価しうることができる成果基盤型評価法(Brindley, 1998)を採用する。(b)評価基準に関して、2人の評定者(西条・森安)が、被験者のコーチング言語データを3段階数値的スケールを用いて評価する。また、タスクの達成状況の判断は、動画データも参照する。(c)事前実技テストと最終実技テストにおける各々の情報構築パターンと言語使用域の観点での有意差(ウィルコクソンの符号付き順位和検定)と効果量を調べる。
2.質問紙法・面接法・学習ログを用いてのGBP効果認識調査 (a)質問紙法(4件法のリッカート尺度)を用いて、被験者たちのコーチングジャンルに対する認識調査をする。質問項目は、(1)ジャンル構造 (2) 言語使用域 (3) 学習効果に関してである。(b)被験者から数名を選び、面接法による質的調査をする。この時、被験者たちには、過去2回に渡り実践してもらった時の映像を見てもらい、自分たちの英語によるコーチングスキルがどのように変化したか回答してもらう。(c)学習ログを用いて、学生たちがコーチング実践をする際に、どのような工夫をしたのかを記述してもらう。このデータと実際のタスクパフォーマンスを見ることで、GBAの明示的指導が実際の英語コーチングにどのように反映されているのかを分析することができる。
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