2017 Fiscal Year Annual Research Report
アジア―アフリカ諸国間の模造品交易に関する文化人類学的研究―携帯電話を事例に
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16H05947
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小川 さやか 立命館大学, 先端総合学術研究科, 准教授 (40582656)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シェアリング経済 / フリー経済 / 模造品 / 中古品 / 香港 / タンザニア / 市民社会 / インフォーマル交易 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、アフリカをはじめとした発展途上国と中国との草の根のインフォーマル交易に着目した人類学的研究が台頭した。このトランスナショナルなインフォーマル交易の主力商品の一つがコピー商品や模造品、偽物である。本研究の目的は、1.コピー商品や偽物が中国で生産・交易され、アフリカで消費されるまでのプロセス・経済実践と、2.中国の製造業者や卸売業者、仲介業者、アフリカ系交易人、消費者がコピー商品や偽物に付与/見いだす道義性や価値の異なりと、その折衝・交渉の過程を明らかにすることで、模倣や海賊行為の意味およびこの草の根のグローバル化のダイナミズムをめぐる議論を再考することにある。 平成29年度の前期は、国際人類学民族学連合の「アジアにおける市民社会」をテーマとしたセッションにて香港在住のタンザニア人が結成した組合活動について発表し、また日本アフリカ学会において香港在住のタンザニア人の中古品・模造品ビジネスの仕組みについて発表した。前者のセッションをもとにして日本文化人類学会英文ジャーナルに特集論文を投稿した。下半期は『現代思想』に香港在住のタンザニア人によるSNSを駆使したオートエスノグラフィとビジネスとの関わりに関して論文を寄稿したほか、1月より春秋社のWebジャーナルにおいて「チョンキンマンションのボスは知っている―香港のアングラ経済と日本の未来」というタイトルで新連載を始め、4回の寄稿を終えた。2月後半に香港に渡航し、主に中古車輸出に関する調査を実施した。本年度の調査では、1.国境を越える模造品や中古品の交易を支える電子マネーによる送金システム(地下銀行)、2.国境を越えるインフォーマル交易のしくみと、先進諸国を中心に注目を集める「シェアリング」経済との近接性が明らかになった。これを通じて草の根のグローバル化を論じるうえでの新たな論点を獲得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度前期は、前年度まで構築した人的ネットワークを生かして中国・香港とアフリカ諸国間の交易システム(天然石、コピー/再生携帯、中古自動車、中古/コピー家電製品)の実態と、それを支える電子マネーを通じた送金システム、国境を越える組合活動の展開、香港・中国の中国系商人や南アジア商人とアフリカ系商人との具体的な取引交渉に関する実証的なデータを得ることが出来た。特にアフリカ系商人がソーシャル・ネットワーキング・サービスと携帯口座による送金システムを駆使し、十分な信頼関係を築いていない/築けない商人との間で、模造品をふくむ「リスクの高い」商品を取引する独自の仕組みを形成しているという前年度に明らかにした内容を追跡調査することで、その仕組みや論理が近年ICTやブロックチェーン等の発展に伴って先進諸国において注目を集めるようになったシェアリング経済やフリー経済ときわめて近似していることを発見した。この発見は、これまでのインフォーマル経済研究および「下からのグローバル化」論に対する新しい論点、切り口を提示するものとなった。 平成29年度には、国際学会・シンポジウムで二度の口頭発表を行なったほか、本テーマに関連した論文を学術雑誌で公刊したほか、いずれ単著としてまとめる事を視野に入れた連載を開始した。 以上のことから、順調に研究が進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の前半には、日本文化人類学会と韓国文化人類学会において報告を行なう。また、本研究の重要な先行研究のひとつであるゴードン・マシューズ氏の著作「Gettho at the Center of the World」の翻訳書を青土社から刊行する。9月にタンザニアおよび香港・中国でフィールド調査を実施し、「シェア」「フリー」といった論点に着目して、彼らのインターネットを駆使した商実践について追加調査を実施する。前年度に日本文化人類学会の英文ジャーナルに投稿した香港在住のタンザニア人の組合活動に関する論文の査読等への対応を行なう。後期には、特に香港在住の中国系・パキスタン系商人とタンザニア人ブローカーとの商取引に焦点をあてた調査成果について『アフリカ研究』に論文を投稿する。また、翻訳書の刊行や英文ジャーナルでの論文の公刊後にマシューズ氏を含めた海外の研究者、および国内外のシェアリング経済やフリー経済の専門家と討論する機会を設ける。 香港・中国在住のタンザニア人交易人・ブローカーによるインフォーマル交易については引き続き、Web春秋で12月まで約1万字の連載をおこない、それを年度内に単著としてまとめることを目指す。 2月3月にふたたび香港において調査を行う。その際には、香港や中国在住のアフリカ系交易人が近年減少していることを踏まえて、香港・中国の模造品・中古品ビジネスに失敗した/成功した人々が現在、どのような場所(他のアジア諸国など)または他のいかなるビジネスへと移行しているのかを明らかにする。次年度に開催予定の国境を越えるインフォーマル交易の国際シンポジウムに向けての調整を行なう。
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Research Products
(19 results)