2018 Fiscal Year Annual Research Report
アジア―アフリカ諸国間の模造品交易に関する文化人類学的研究―携帯電話を事例に
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16H05947
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小川 さやか 立命館大学, 先端総合学術研究科, 准教授 (40582656)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | タンザニア / 香港 / インフォーマル経済 / 交易 / 模造品 / シェアリング経済 / 地下銀行 / グローバル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、アフリカをはじめとした発展途上国と中国との草の根のインフォーマル交易に着目した人類学的研究が台頭した。このトランスナショナルなインフォーマル交易の主力商品の一つがコピー商品や模造品、偽物である。本研究の目的は、1.コピー商品や偽物が中国で生産・交易され、アフリカで消費されるまでのプロセス・経済実践と、2.中国の製造業者や卸売業者、仲介業者、アフリカ系交易人、消費者がコピー商品や偽物に付与/見いだす道義性や価値の異なりと、その折衝・交渉の過程を明らかにすることで、模倣や海賊行為の意味およびこの草の根のグローバル化のダイナミズムをめぐる議論を再考することにある。 本年度の実績は次のとおりである。日本文化人類学会で香港在住のアフリカ系交易人・ブローカーが構築したビジネスプラットフォームに綴られる記録を「オートエスノグラフィ」とみなす可能性について口頭発表を行なった。また同学会の日韓合同フォーラムおよび韓国文化人類学会の韓日合同フォーラムで「自言語による人類学的実践」に関する講演・討論を行った。9月に韓国のソウル大学と延世大学に招待され、香港在住のアフリカ系交易人による独自のシェアリング経済とプラットフォーム型市民社会をテーマに講演した。 2018年5月、2019年2月および3月に香港においてフィールド調査を実施し、タンザニア人組合の活動、交易のシステム、および移民や難民の権利とそれに関わる問題等を明らかにした。春秋社のWeb雑誌に「チョンキンマンションのボスは知っている―香港の地下経済と日本の未来」というテーマで連載した他、日本文化人類学会の英文雑誌に香港の組合活動に関する論文、環太平洋文明研究センターの紀要に携帯電話交易と地下経済に関する論文、アジア経済研究所の英文論集に中古品交易に関する論文、日本文化人類学会の学会誌にオートエスノグラフィに関する論文を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に、香港・中国在住のアフリカ系商人がソーシャル・ネットワーキング・サービスと携帯口座による送金システムを駆使して模造品等を商う独自のビジネスプラットフォームを構成していること、その仕組みや論理は近年においてICTやブロックチェーン等の発展に伴って先進諸国で注目を集めるようになったシェアリング経済やフリー経済ときわめて近似していることを発見した。本年度には、これらのビジネスプラットフォームや送金システムの仕組みを丁寧に解き明かし、専門的なビジネスプラットフォームと類似しているものの、違いもあることを明らかにできた。彼らのプラットフォームは、「遊び」と「労働」、「経済的な利益追求」と「分配・シェア」といった価値の両立が巧みに図られており、ユーザーにとって中国・香港とアフリカ諸国間を横断した巨大なセーフティネットとしても機能している。また、こうした「海賊的な」プラットフォームの形成が、移民・難民としての生存戦略だけでなく、中国・香港とアフリカ諸国間の人口動態にも大きな影響を与えていることも示唆した。 2018年度には、国内外の学会・ワークショップでこれらの成果を口頭発表した他、本テーマに関連した論文を英語ジャーナルを含む学術雑誌に積極的に投稿した。また春秋社のWebジャーナルで香港・中国とアフリカ諸国間の交易に関する連載を完了し、すでに出版が決定している。 以上のように当該課題に関する研究成果を順調に公刊していることから、順調に研究が進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の前半期には、昨年度末に投稿した日本文化人類学会とアジア経済研究所の投稿論文の査読結果への対応を行い、着実な成果の公刊を目指す。4月末までに『都市科学辞典』の分担項目「インフォーマルセクター」を執筆する。6月に日本文化人類学会の「アジアにおける市民社会」をテーマとする分科会で、香港のタンザニア人組合の事例について口頭発表を行う。また、昨年度に春秋社のWeb雑誌に連載した「チョンキンマンションのボスは知っている―香港の地下経済と日本の未来」を単著にまとめ、前半期までに春秋社から出版する。 9月に香港およびタンザニアに渡航し、香港・中国とアフリカ諸国間の交易で財を成した交易人たちの帰国後の商売や人生設計等に関する調査を実施する。また、近年の香港・中国における移民政策の変化に対応して、中国・香港から買い付け場所を日本に移したアフリカ系交易人たちもおり、タンザニア人を事例に彼らの交易システムとの比較調査を行う。 10月下旬に韓国および中国から研究者を招聘し、アジア諸国への商業的な移動に関する国際シンポジウムを企画する。これらの成果をまとめて『アフリカ研究』等に投稿する。 以上の計画で、最終年度にあたる2019年度は、査読論文の公刊、単著の出版、国際シンポジウムの開催を滞りなく進め、本研究課題の成果を形にすることを最大の目標とする。
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