2016 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝子多型と社会環境の相互作用が子どもの実行機能の発達とその脳内機構に及ぼす影響
Project/Area Number |
16H05956
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森口 佑介 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (80546581)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 実行機能 / 遺伝と環境の相互作用 / 遺伝子多型 / 前頭前野 / 社会環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
実行機能とは,目標到達のために行動を制御する能力を指す。幼児期や児童期における実行機能の発達の個人差は後の学力や友人関係などを予測するため,この能力の個人差が生み出される発達機序の理解は急務である。本研究では,遺伝的要因である遺伝子多型(DNAの配列の個人差)と社会環境およびその相互作用に着目し,これらの要因が前頭前野の働きを通して実行機能の発達の個人差にいかに影響するかを検討することを目的とした。
本年度は、90名の幼児を対象に、遺伝子多型と実行機能の関連とその発達的変化を探った。遺伝子多型として、COMT(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ )遺伝子に着目した。COMT遺伝子はドーパミン作用を不活性化するCOMTという酵素をコードする。この遺伝子において,Met-Met多型(以下,Met多型)を持つ成人は,Met-Val多型やVal-Val多型(以下,Val多型)を持つ成人よりも,認知的柔軟性課題の成績が良い(Mier et al., 2010)。Met多型を持つ成人は,COMTの働きが遅く,ドーパミン伝達がスムーズであり,外側前頭前野を強く活動させるためである。
本研究では,子どものCOMT遺伝子多型と認知的柔軟性課題の成績,およびその発達的変化を検討した。その結果、遺伝子多型と認知的柔軟性の関係は、3-4歳児では見られないこと、5-6歳になってからみられるようになることが明らかとなった。さらに、成人の結果とは異なり、5-6歳児においては、Met多型よりも、Val多型の方が、認知的柔軟制課題の成績が良いことが示された。さらに、近赤外分光法を用いて前頭前野の活動を取得したところ、Val多型の方が、Met多型よりも、活動が強いことが示された。遺伝子多型と実行機能が幼児においても関連すること、その関係は発達的に変化することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初計画通りに、概ね順調に進展していると言える。当初の予定通り、幼児を対象に遺伝子多型と実行機能および前頭前野の活動の関連を検討することに成功した。対象となる参加児の数も、予定を10名超える90名の幼児からデータを取得することができ、分析に十分な数の参加児を確保することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1年目の成果を基に、研究2年目は遺伝子多型と実行機能の関連について、さらに研究を進展する。具体的には、COMT遺伝子が社会環境と相互作用して、実行機能の発達にいかなる影響を及ぼすかを検討する。さらに、遺伝子多型として、COMT遺伝子だけではなく、DRD4(ドーパミンD4受容体)遺伝子が実行機能の発達に及ぼす影響も検討する予定である。
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Research Products
(9 results)