2017 Fiscal Year Annual Research Report
単一アト秒パルスを用いた超高速光応答デバイスの実現
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16H05987
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Research Institution | NTT Basic Research Laboratories |
Principal Investigator |
増子 拓紀 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 主任研究員 (60649664)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アト秒科学 / アト秒パルス / 原子・分子光学物理 / 量子光学 / 量子光エレクトロニクス / 超高速物理 / 高次高調波 / 高強度物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在の電子応答デバイスは、ラジオ周波数帯のマイクロ波を基に動作し、その周波数はテラヘルツ(10^12 Hz:THz)程度に留まる。本研究は、より高周波領域である可視・紫外領域の光電界を利用し、半導体や絶縁体内部で生じるペタヘルツ(10^15 Hz:PHz)の電子応答特性について調査している。可視・紫外領域の光電界により生じる電子分極は、アト秒時間(10^-18 秒:as)で振動する電子運動(双極子振動)を誘起する。2016年度(平成28年度)において本研究では、単一化された660アト秒(10^-18 秒:as)パルスを用いて、窒化ガリウム(GaN)半導体中で生じる860 asの電子振動計測に成功した[H. Mashiko et al., Nature Phys. 5, 741 (2016)]。 2017年度では、さらなく高速の電子振動を観測するために、クロム材料を添加したサファイア(Cr:Al2O3)物質内において、光を照射した際に、アト秒周期で振動する電子運動の観測を行なった。この電子の振動周期は667-383アト秒に達し、時間分解計測における世界最高速の振動応答に達する[H. Mashiko et al., Nature commun. 9, 1468(2018)]。この観測は、単一アト秒パルスのさらなる短パルス化(パルス幅:192 as)を図り、また時間分解計測に用いる光学系の超高安定化(干渉計の時間揺らぎ:23 as)により観測が実現された。さらに本研究では、物質内で混在する二つの材料(クロムとサファイア)間で、電子振動が異なった減衰時間(振動の継続時間)を有していることを解明した。これらの超高速の電子振動や減衰過程を解明することは、物質の新たな光機能性を創出する上で重要な知見になることが期待でき、将来の光デバイスの特性改善にもつながると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の実験では、192 asのパルス幅を持つ単一アト秒パルス光源を用いて、クロム材料を添加したサファイア(Cr:Al2O3)物質内において、667-383 asの周期を持つ電子振動計測に成功している[H. Mashiko et al., Nature commun. 9, 1468(2018)]。この際に、物質内で混在する二つの材料(クロムとサファイア)間での電子振動は、異なる減衰時間(振動の継続時間)を有していることが初めて観測された。この様な添加材料を施した半導体内部の電子応答の調査は、今後において重要な知見となる。通常、半導体デバイスは、添加材料(ドーパント)を施したp型およびn型半導体を接合することにより、整流性・エレクトロルミネセンス・光起電力効果などの現象を創出している。これらの性質がダイオードやトランジスタを始めとする半導体デバイスの機能を引き出す。本研究では、この半導体デバイス内部で生じる電子応答を調査することで、将来のペタヘルツ駆動の超高速光応答デバイスの実現を目指しており、添加物に対する電子応答の特性調査は重要である。 一方で、極端紫外領域(XUV)に達する単一アト秒パルスにより観測された電子振動は、フーリエ変換(FT)により非常に高い遷移エネルギー迄を調査することが可能となる。ここでは、Cr:Al2O3の電子系に対して、最大10.7 eVまでの電子応答特性を評価した。この遷移エネルギーは、ほぼ全ての絶縁体のバンドギャップエネルギーをカバーし、固体物質中の電子応答特性を広く調査することが可能であることを示唆している。この単一アト秒パルスを応用した固体材料に対する時間分解計測法は、従来の赤外パルスを用いた原子核の時間応答に対するフーリエ変換分光法(FTIR)を進化させ、電子の時間応答に対する極端紫外フーリエ変換分光法(FTXUV)として提唱できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は更なる発展系として、アト秒パルス誘起のペタへルツ周波数を伴う光電流検出実験を行う予定である。過渡吸収や反射分光を基本とした電子振動の計測は、吸収体や反射体としての半導体の機能性を満たしているが、将来的な高速信号処理の応用を考慮するならば、光電流検出は重要なステップとなる。実験サンプルとしては、代表的な半導体素子(Si・GaN等)に電極配線を施し、電流検出を試みる。また、アト秒パルス誘起の光電流検出は、非常に微弱な信号であることが予測されるため、アト秒パルスの3 kHzの高繰り返し化およびnJ級へのハイパワー化を行う。また、ロックイン検出を利用した光電流計測等の検出技術を改善し、これらの問題に対処する。 一方で、現状の過渡吸収分光に、過渡発光分光計測系を組み入れた装置を構築し、固体中の電子分極に伴う光吸収と光発光間の量子遅延の観測を目指す。これらの調査は、分極という一般的な現象(反射・吸収・屈折・回折・電流・発光)ながら、新たに電子運動を振動現象から理解することは、将来的な物質の画期的な光機能性を創出することに繋がる可能性がある。
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Research Products
(15 results)