2016 Fiscal Year Annual Research Report
次世代素粒子実験のための高磁場無機絶縁超伝導磁石の開発
Project/Area Number |
16H06008
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
飯尾 雅実 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 研究機関講師 (00469892)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 超伝導工学 / 加速器科学 / 素粒子実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核・素粒子物理学の研究は、粒子加速器や検出装置の高度化と共に歩んでおり、その中でも磁石技術の発展は欠かすことができない。テバトロン加速器の建設において、NbTi線を用いた超伝導磁石技術は飛躍的に向上し、物理実験だけではなく様々な分野へ応用されている。しかしながら、既にCERNによって提唱されている衝突エネルギー100 TeVの次世代加速器FCC(Future Circular Collider)を建設するには磁石技術のパラダイムシフトが必要である。FCC加速器には20 Tの高磁場磁石が要求されているが、臨界磁場を遥かに超えているためNbTiでは超伝導状態を維持できない。また、FCCの磁石は200 MGy以上の高放射線環境下での運用が予想されており、既存の有機材料を用いた絶縁構造は高放射線量により破壊されてしまう。したがって、新たな超伝導材料を用いて、今まで積み上げられてきたNbTi技術を超える磁石を作る必要があり、本研究では高温超電導体(HTS)と無機絶縁材料を用いた冷媒フリーの間接冷却型高磁場磁石実現のための基礎研究を行っている。 2016年度はHTSテープ及び磁石材料にセラミックコーティングのトライアルを行った。狙い膜厚0.05 mm対して厚さ約0.04 mmのコーティングに成功し、耐電圧も2000 Vを有している。また、東北大学金属材料研究所附属量子エネルギー材料科学国際研究センター(IMR大洗)の共同利用プログラムを利用し、ベルギーのBR2実験原子炉でHTSテープの中性子照射が行われた。試料は2017年度にIMR大洗に戻ってくる予定であるので、その後超伝導特性の照射効果を調べる。更に有機材料を放射線耐性の高いものに置き換えたパルスチューブ冷凍機の試作を行った。工場での試験では冷却能力は仕様を満たすものとなっており、2017年度は冷却テストを行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
磁石の絶縁は大きく二つに分類され、一つはケーブル自身の素線絶縁であり、もう一つはコイルとサポート構造との対地絶縁である。2016年度はこの絶縁方法の確立を目指した。超伝導線材の候補としてReBCO系HTSテープを2社より購入し、その両方にセラミック塗料(アルミナ+シリカ)をスプレーで吹き付け、高温炉で熱処理をすることで表面コーティングを実施した。狙い膜厚0.05 mmに対して、0.04 mmのコーティング膜を形成することに成功した。また、同様に対地絶縁用の金属材料にも同様のコーティングを行い、耐電圧2000 Vの良い結果を得られたため、無機絶縁方法に関して概ね方向性が決まった。 冷却システムの開発に関して、2016年度は耐放射線冷凍機の製作を行うことにしていた。実際にスリーブやO-ringなどの有機材料を放射線耐性に優れた材料への置き換えや蓄冷材の変更などのカスタマイズを行ったパルスチューブ冷凍機の製作を住友重機械工業に依頼し、仕様冷凍能力を備えた冷凍機が納品された。 本研究では、HTS線材の放射線耐性に関する知見を得るために中性子試験を行うが、2016年度は、当初の計画通り東北大学金属材料研究所附属量子エネルギー材料科学国際研究センター(IMR大洗)の共同利用プログラムを利用し、ベルギーのBR2実験原子炉でHTSテープの中性子照射が行われた。 上記に記述された様に2016年度はほぼ計画通りに開発研究が進んでおり、本計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度前半は磁石及びクライオスタット部品の製作を行う。また、完成した部品と既存のシステムを組み上げ、張力コントロール可能な巻き線機を立ち上げ、R&Dの結果を反映させた絶縁やその他の構造でテストコイルの巻線を行う。後半はアルミシェルを被せ、冷却システムや各種測定装置を組み合わせて、テスト磁石システムを組み上げ、冷却・励磁試験を行い磁石の性能を評価を始める。試験項目として、まず各部の到達温度、コイルの温度勾配、熱負荷に対する反応速度等を測定する。次に磁石に通電し磁石の電磁特性を評価する。また本磁石はコイルが1台(34台中)しかないので、本番磁石で想定される磁場に到達できず、非常に大きな電流を流してもクエンチしない事が予想される。そこで、コイル内に予めヒーターを埋め込んでおき、時間構造がパルス形状の熱を与え強制的にクエンチさせることでその振る舞いを観察する。 中性子照射に関して、照射後のサンプルが戻ってくる予定なので、引き続きIMR大洗センターの超伝導線材評価装置を用いて、照射効果に関して詳しく調べる。また、2016年度より更に積算照射量を増やした試験を行うために、2016年度と同様のプロセスでベルギー・モル研究所に設置されている原子炉(BR2)に試料を送る。
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