2018 Fiscal Year Annual Research Report
エニオン統計性を有する分数電荷準粒子の2粒子衝突実験
Project/Area Number |
16H06009
|
Research Institution | NTT Basic Research Laboratories |
Principal Investigator |
橋坂 昌幸 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 主任研究員 (80550649)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | メゾスコピック系 / 半導体物性 / 物性実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題「エニオン統計性を有する分数電荷準粒子の2粒子衝突実験」の目的は、分数量子ホール系の素励起である分数電荷準粒子のエニオン統計性を実験的に検証することである。強磁場中の半導体2次元電子系において分数電荷準粒子の衝突実験を実現することで、この目的の達成を目指す。 本研究は、電流相互相関測定法、および局所分数量子ホール系作製法という2つの技術を組み合わせて分数電荷準粒子の衝突実験を行う計画である。平成30年度は、第一に占有率1局所量子ホール系のバイアス応答についての解析を進めた。この系で現れる量子ホールブレークダウン現象について、2つの非平衡過程を明瞭に区別することに成功した。1つ目の過程は量子ホールエッジ状態間の粒子散乱である。2つ目の過程は交換エネルギーの減少によるスピン縮退と考えている。これは局所量子ホール系における電子スピンダイナミクスを明らかにした重要な結果であるため、論文にまとめて発表する予定である。 第二に、2つの異なる占有率を有する量子ホール系の接合について、接合部に生じるエッジ状態の内部構造を調べた。当該分野の最近の研究で、分数エッジ状態は分数量子ホール系の電子相関効果を反映した内部構造を持っており、全てのエッジ状態が衝突実験に適するわけではないことが認識されてきた。本研究では、量子ホール接合系を用いるとこの内部構造を詳しく調べられることを着想し、実際に代表的な占有率2/3分数エッジ状態の内部構造を明らかにした。この成果についても、論文にまとめて発表する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該分野における最近の研究で、準粒子衝突実験は単純な量子光学の模倣では実現できず、分数エッジ状態の内部構造を詳しく明らかにしたうえで、実験を再設計する必要があることが分かってきた。この状況を踏まえ、本研究では分数エッジ状態の内部構造を調べるための実験を着想し、世界に先駆けた優れた実験結果を得ている。これは当初予定以上の大きな結果であると考えている。一方で、本研究の開始当時の予想に反し、準粒子衝突実験の実現に向けたハードルが高いということが分野全体として認識されてきている。我々はこのハードルを越えるための知見を得つつあるが、当初計画の実現にはさらなる飛躍が必要と見込まれる。
|
Strategy for Future Research Activity |
第一に、準粒子衝突実験の重要な基礎となる「分数エッジ状態の内部構造解明」について、早期に論文を発表し、本研究の実験結果を世界に向けてアピールする。 第二に、分数エッジ状態を利用した準粒子衝突実験を再設計する。内部構造を考慮して適切な分数エッジ状態を選択し、そのエッジ状態上に局所量子ホール系を散乱体として配置する。この散乱体に2つの準粒子を入力して、衝突を観測することを目指す。既に測定のための実験環境は概ね整っているため、最終年度は測定に集中して取り組み、準粒子衝突実験を実現したいと考えている。
|