2016 Fiscal Year Annual Research Report
超高分解能レーザー角度分解光電子分光で選別観察する高温超伝導体の多様な秩序状態
Project/Area Number |
16H06013
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
近藤 猛 東京大学, 物性研究所, 准教授 (40613310)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 角度分解光電子分光 / レーザー / 高温超伝導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
高温超伝導の発現機構解明は、その発見から約30年が経った今でも物性物理学の最も挑戦的な課題の一つである。近年、銅酸化物の擬ギャップ相において電荷秩序がX線散乱実験により示され、走査型トンネル顕微鏡実験からも対応する電子状態が確認された。鉄系物質の擬ギャップに関しては、ネマティックな電子状態との関係が活発に議論されている。高温超伝導体における電子対の形成と、多様な秩序状態との相互関係は、現在最もホットなトピックの一つである。本研究では、超高分解能を実現するレーザー励起角度分解光電子分光を駆使した精密観察から、銅酸化物及び鉄系物質が示す高温超伝導の発現機構を研究する。BZ全域での測定を可能とするレーザーを導入し、超伝導と多様な秩序状態との関係や、BZの中心と境界に形成されるフェルミポケット同士の相互関係を、超高分解能測定で解明する。これまでに我々は、バンド構造の自動マッピングはもちろんのこと、これまでARPESでは困難とされた温度スキャンをも全自動で測定可能なシステムを構築し、ヒートスイッチでクライオスタットと孤立させた試料ホルダーを局所加熱で温度制御することで、マニピュレータの熱膨張による試料位置の温度変化を防ぎ、試料表面へのレーザー照射位置を温度によらず固定しながら精密に温度スキャンすることを可能にした。精密温度スキャンで解明した銅酸化物の特徴は驚くべきもので、一粒子スペクトルのEFでの強度が、Tc以下の低温から昇温と共に増加し、ギャップが閉じる更なる高温(Tpair>Tc)までfillingし続けることが分かった。この振る舞いはBCS理論では想定されない電子対破壊散乱(pair-breaking rate)の温度発達として解釈でき、Tcが電子対ギャップの形成温度(Tpair)より低温へと抑制される銅酸化物の特性だと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
d波超伝導体である銅酸化物高温超伝導体の研究では、ギャップが最大となるアンチノード近傍でのギャップ構造とその特性に関しては多くの報告例があり、その理解も進展してきた。一方、ギャップが微細となるノード近傍の研究は、装置の分解能の制約からその理解が遅れてきた。我々はこれまで、銅酸化物高温超伝導体の電子物性を解明する上での鍵を握る擬ギャップとそれに伴うフェルミアークの起源を見いだす大きな進展を得ている。特に微細な温度変化測定を可能とする測定ステージ周りの改良と、その機能性を最大限活かすソフトウェア開発を成し遂げ、従来の角度分解光電子分光とは比較にならないほどの、スペクトル温度スキャンを可能とした。本プロジェクトで期待される高温超伝導体の多様な秩序状態の選択的測定に於いて必要な実験手法を確立するため、さらにレーザーの特徴である偏光依存性を自由自在に制御する測定システムを今後開発インストールすることで、当初掲げる研究計画の到達が期待される。超高分解能を実現するレーザー励起型のARPES 装置を活用する本研究最大の特徴に基づいた研究が順調に進んでおり、期待通りの成果が得られているものと評価できるため、「当初の計画以上に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
レーザーARPESの光源として、非線形結晶KBBFを1つ使用した6倍波7eVレーザーがこれまでの主流であった。KBBFを2個使用した7倍波8eVレーザーも生成可能では有るが、KBBFが持つバンドギャップに近い8eVは光学吸収端に位置しており、透過率は<0.1%と極めて低く、高精度のARPES測定に耐えうる十分な強度と安定性が得られていない。しかも、7~8eVレーザーが抱える最大の欠点は、BZ全体を測定できない点にある。Xeガス共鳴励起を採用することで、ほぼ全ての物質でBZ全域を測定でき、レーザーARPESの特徴である超高分解能を兼ね備えるテーブルトップ11eVレーザー光源を調整中であり、今後高温超伝導研究の進展に活かす計画である。レーザーARPESで超高分解能を実現するには、光電子同士のクーロン反発に起因する光電子運動エネルギーの不確定なシフトと分解能の低下(スペースチャージ効果)を防ぐ要請から、レーザーのパルス強度を抑制する必要がある。一方で、精密な物性評価に耐えうるsignal/noise比の大きなARPESスペクトルを収集するためには、十分な光強度が求められる。そこで、弱いパルス強度で光強度を稼ぐ高繰り返しな準CWレーザーを導入する必要がある。本計画では、高繰り返しかつ大強度なファイバーレーザーを利用し、従来型7eVレーザー(120MHz)と遜色無い50MHzの準CW超高分解能11eVレーザーを利用する。我々は、銅酸化物研究を通して築いた精密測定のノウハウを従来型非従来型を問わず様々な超伝導体に応用し、BCS理論では想定されていない電子対破壊散乱と、それがもたらす電子対の寿命について系統的な研究を行う計画である。
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[Journal Article] Orbital-Dependent Band Narrowing Revealed in an Extremely Correlated Hund’s Metal Emerging on the Topmost Layer of Sr2RuO42016
Author(s)
T. Kondo, M. Ochi, M. Nakayama, H. Taniguchi, S. Akebi, K. Kuroda, M. Arita, S. Sakai, H. Namatame, M. Taniguchi, Y. Maeno, R. Arita, S. Shin
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 117
Pages: 247001(1-5)
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Slater to Mott Crossover in the Metal to Insulator Transition of Nd2Ir2O72016
Author(s)
M. Nakayama, T. Kondo, Z. Tian, J. J. Ishikawa, M. Halim, C. Bareille, W. Malaeb, K. Kuroda, T. Tomita, S. Ideta, K. Tanaka, M. Matsunami, S. Kimura, N. Inami, K. Ono, H. Kumigashira, L. Balents, S. Nakatsuji, S. Shin
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 117
Pages: 056403(1-5)
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Spin Polarization and Texture of the Fermi Arcs in the Weyl Fermion Semimetal TaAs2016
Author(s)
S-Y Xu, I. Belopolski, D. S. Sanchez, M. Neupane, G. Chang, K. Yaji, Z. Yuan, C. Zhang, K. Kuroda, G. Bian, C. Guo, H. Lu, T-R. Chang, N. Alidoust, H. Zheng, C-C. Lee, S-M. Huang, C-H. Hsu, H-T. Jeng, A. Bansil, T. Neupert, F. Komori, T. Kondo, S. Shin, H. Lin, S. Jia, M. Z. Hasan
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 116
Pages: 096801(1-7)
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] ARPESで見た擬ギャップ2017
Author(s)
近藤猛
Organizer
日本物理学会 第72回年次大会 (2017年)
Place of Presentation
大阪大学 豊中キャンパス (大阪府豊中市)
Year and Date
2017-03-17 – 2017-03-20
Invited
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[Presentation] BaKFe2As2の超伝導状態における反強的電子構造2017
Author(s)
下志万貴博, Walid Malaeb, 近藤猛, 木方邦宏, 李哲虎, 伊豫彰, 永崎洋, 石田茂之, 中島正道, 内田慎一, 大串研也, 石坂香子, 辛埴
Organizer
日本物理学会 第72回年次大会 (2017年)
Place of Presentation
大阪大学 豊中キャンパス (大阪府豊中市)
Year and Date
2017-03-17 – 2017-03-20
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[Presentation] キラルな結晶構造を有するテルル単体のバンド構造の観測2017
Author(s)
坂野昌人, 平山元昭, 高橋敬成, 明比俊太朗, 中山充大, 黒田健太, 宮本幸治, 奥田太一, 小野寛太, 組頭広志, 三宅隆, 村上修一, 笹川崇男, 近藤猛
Organizer
日本物理学会 第72回年次大会 (2017年)
Place of Presentation
大阪大学 豊中キャンパス (大阪府豊中市)
Year and Date
2017-03-17 – 2017-03-20
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[Presentation] 角度分解光電子分光で観測するCd2Os2O7の電子状態2017
Author(s)
中山充大, 近藤猛, 廣瀬陽代, 黒田健太, Balleile C dric, 坂野昌人, 明比俊太朗, 野口亮, 國定聡, 広井善二, 辛埴
Organizer
日本物理学会 第72回年次大会 (2017年)
Place of Presentation
大阪大学 豊中キャンパス (大阪府豊中市)
Year and Date
2017-03-17 – 2017-03-20
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[Presentation] 高次高調波レーザーを用いたフェムト秒時間分解ARPESによる銅酸化物高温超伝導体Bi2212の準粒子ダイナミクスの直接観測2016
Author(s)
岡田大, 岡崎浩三, 鈴木博人, 山本貴士, 染谷隆史, 小川優, 笹川崇男, 近藤猛, 藤澤正美, 金井輝人, 石井順久, 板谷治郎, 辛埴
Organizer
日本物理学会 2016年 秋季大会
Place of Presentation
金沢大学 角間キャンパス (石川県金沢市)
Year and Date
2016-09-13 – 2016-09-16
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