2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16H06015
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
酒井 英明 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (20534598)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ディラック電子系 / 巨大磁気抵抗 / トポロジカル磁性体 / ワイル半金属 / 量子ホール効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず本年度は、磁性ディラック電子系の基本物質EuMnBi2における、磁気抵抗のメカニズムを解明するため、EuとMnスピンの反強磁性状態の詳細を調べた。磁場中で単結晶中性子回折実験を行い、本物質の磁気反射を観測した結果、未解明であった磁場中(6 T)での反強磁性パターンを決定できた。磁気構造解析により、Euスピンのフロップに関わらず、Mnスピンはほぼc軸方向であることが明らかとなった。これより、スピンフロップに付随する磁気抵抗は、Mnスピンの変調では説明できず、磁気ドメインなどの新奇なメカニズムの関与を示唆する結果を得た。 さらに、多彩なディラック電子系磁性体の開拓を目指し、(1)EuMnBi2における元素置換によるキャリア濃度制御、(2)自発磁化を有するBaMnX2系の純良単結晶合成、に成功した。各々の成果の内容は以下である。 (1)EuをGdで部分置換することで、母物質のp型キャリア濃度を大幅に減少させることに成功した。さらに置換量を増やすことにより、n型キャリアへ転換できることも実証した。また、キャリア濃度を減少させた系では、強磁場中で量子極限に到達できるため、N=0, 1のランダウ準位構造を詳細に調べた。この結果、従来のスピン分裂では説明できない新たな分裂構造を発見した。これは、局在スピンとの交換相互作用に加え、電子間相互作用も電子状態に重要な寄与をしていることを示唆し、ディラック点近傍では非自明な強相関状態が実現していることが明らかとなった。 (2)BaMnX2の磁性や輸送特性は、これまで文献ごとに異なる報告がなされていたが、我々のグループでは自己フラックス法による純良単結晶の合成に成功し、合成条件のわずかな違いにより、物性が大きく変化することを見出した。この結果、磁化曲線におけるヒステリシスの有無や、キャリアの極性(p/n型)を制御できることを実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
磁気秩序と強く結合したディラック電子伝導のメカニズム解明に関する研究は、ほぼ予定通り進んでおり、基本物質EuMnBi2において、磁場中の中性子回折により、Euスピンがフロップした反強磁性状態を実験的に解明することができた。さらに物質開発面も着実に進展しており、EuMnBi2における大幅なキャリア濃度制御に加え、自発磁化を有するプロトタイプの合成法の確立にも成功した。特に、前者の成果から得られたディラック点近傍にフェルミエネルギーを調整した系において、バレー分裂構造や異常なゼロエネルギー準位を発見し、電子間相互作用やスピン軌道相互作用の重要性を明らかにできた点は、予想を上回る進展といえる。また、このような強相関効果は、本物質系のディラック電子状態が、ビスマスの二次元層で実現していることを反映しており、炭素からなる従来のグラフェンとは大きく異なる電子・スピン状態が実現していることが期待できる。このため、新しい強相関ディラック電子系として、今後の理論研究や分光学研究へ繋がる成果であったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究では、基本物質のEuMnBi2において、元素置換によりフェルミエネルギーをディラック点の上下に亘り制御し、その電気伝導特性の変化を明らかにした。今後は、バルク物質の強みを生かし、電気伝導に加え熱輸送(ゼーベック効果、ネルンスト効果)の解明を目指す。まずは、p型からn型までキャリア濃度を調整したEuMnBi2系単結晶を対象に、ゼーベック効果と磁場中のネルンスト効果を系統的に測定し、そのフェルミエネルギー依存性を解明する。ゼーベック効果については、超高移動度に起因する優れた熱電性能の実験的な検証に加え、理論グループと協力することにより、第一原理計算による最適キャリア濃度の予測なども進める。得られた実験結果と理論予測を比較することにより、有効質量やフェルミ速度を定量的に見積もることを目指す。また、ネルンスト効果については、他のディラック電子系においてゼーベック効果に匹敵する巨大な起電力が観測されているため、本物質系における起電力の大きさとフェルミエネルギーの関係を明らかにし、巨大化のメカニズムを解明する。さらに、磁場によりEuスピンの磁気秩序を制御することにより、磁化に比例する異常ネルンスト効果の寄与を実験に明らかにしたい。 また、現在研究を進めているキャント反強磁性を示すディラック電子系を発展させ、ディラック強磁性体の新規合成も狙う。このような系では、自発磁化による伝導制御や、ベリー位相に由来するゼロ磁場での異常ホール効果や異常ネルンスト効果が顕著になると期待できる。強磁性状態の実現に向け、Mnサイトの部分置換や、他の遷移金属元素をベースとする新規層状物質の合成を試み、自発磁化の巨大化や強磁性への転移の有無を明らかにする。従来の自己フラックス法に加え、合成時間を短縮できる高圧合成も利用し、幅広く物質探索を進める予定である。
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Research Products
(38 results)
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[Journal Article] Lattice Dynamics of 1T'-MoTe2 Studied by Time-Resolved Transmission X-Ray Diffraction at SACLA2018
Author(s)
Takahiro SHIMOJIMA, Asuka NAKAMURA, Kyoko ISHIZAKA, Yoshikazu TANAKA, Kou TAKUBO, Yasuyuki HIRATA, Hiroki WADATI, Susumu YAMAMOTO, Iwao MATSUDA, Koji IKEURA, Hidefumi TAKAHASHI, Hideaki SAKAI, Shintaro ISHIWATA, Tadashi TOGASHI, Shigeki OWADA, Tetsuo KATAYAMA, Kensuke TONO, Makina YABASHI and Shik SHIN
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Journal Title
Adv. X-Ray. Chem. Anal., Japan
Volume: 49
Pages: 163-168
Peer Reviewed
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[Presentation] Quantitative Evaluation of ”Diracness” from the Quantum Oscillations in PbTe2018
Author(s)
K. Akiba, A. Miyake, H. Sakai, K. Katayama, T. Sakamoto, N. Hanasaki, S. Takaoka, Y. Nakanishi, M. Yoshizawa, Y. Uwatoko, and M. Tokunaga
Organizer
"APS March Meeting 2018
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[Presentation] TaAs のTa 終端表面の電子構造2018
Author(s)
密岡拓心, 岡本陽平, 溝川貴司, 村川寛, 駒田盛是, 横井滉平, 酒井英明, 花咲徳亮, E.F.Schwier, 島田賢也, 生天目博文
Organizer
日本物理学会第73 回年次大会
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[Presentation] 反強磁性秩序をもつ多層ディラック電子系EuMnBi2の電子構造の研究2018
Author(s)
深田和宏, 増田英俊, 坂野昌人, 黒田健太, 原沢あゆみ, 矢治光一郎, 近藤猛, 辛埴, 酒井英明, 石渡晋太郎, 石坂香子
Organizer
日本物理学会第73 回年次大会
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[Presentation] Dirac fermion transport coupled with magnetic order in a layered antiferromagnet EuMnBi22017
Author(s)
Hidetoshi MASUDA, Hideaki SAKAI, Masashi TOKUNAGA, Yuichi YAMASAKI, Atsushi MIYAKE, Junichi SHIOGAI, Shintaro NAKAMURA, Satoshi AWAJI, Atsushi TSUKAZAKI, Hironori NAKAO, Youichi MURAKAMI, Taka-hisa ARIMA, Yoshinori TOKURA,and Shintaro ISHIWATA
Organizer
The International Conference on Strongly Correlated Electron Systems 2017 (SCES2017)
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[Presentation] The evaluation of Diracness in Pb1-xSnxTe from the quantum oscillation phenomena in magnetic fields2017
Author(s)
K. Akiba, A. Miyake, H. Sakai, K. Katayama, T. Sakamoto, N. Hanasaki, S. Takaoka, Y. Nakanishi, M. Yoshizawa, Y. Uwatoko, M. Tokunaga
Organizer
The International Conference on Strongly Correlated Electron Systems 2017 (SCES2017)
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[Presentation] Quantum Transport of Dirac Fermion Coupled with Magnetic Order in a Layered Antiferromagnet EuMnBi22017
Author(s)
"H. Masuda, H. Sakai, M. Tokunaga, Y. Yamasaki, A. Miyake, J. Shiogai, S. Nakamura, S. Awaji, A. Tsukazaki, H. Nakao, Y. Murakami, T. Arima, Y. Tokura, and S. Ishiwata "
Organizer
Kanamori Memorial International Symposium
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[Presentation] High pressure synthesis of perovskite-type cuprate with quasi-one-dimensional Cu-O chains2017
Author(s)
H. Takahashi, M. Ito, J. Fujioka, H. Sakai, M. Ochi, S. Sakai, R. Arita, H. Sagayama, Y. Yamasaki, Y. Yokoyama, H. Wadati, Y. Kusano, Y. Tokura and S. Ishiwata
Organizer
Kanamori Memorial International Symposium
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[Presentation] High pressure synthesis of perovskite-type cuprate with quasi-one-dimensional Cu-O chains2017
Author(s)
H. Takahashi, M. Ito, J. Fujioka, H. Sakai, M. Ochi, S. Sakai, R. Arita, H. Sagayama, Y. Yamasaki, Y. Yokoyama, H. Wadati, Y. Kusano, Y. Tokura, and S. Ishiwata
Organizer
The 6th Toyota RIKEN International Workshop
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