2017 Fiscal Year Annual Research Report
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16H06023
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新名 良介 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任准教授 (00769812)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地球・惑星内部構造 / 地殻・マントル物質 / 固体地球物理学 / 岩石・鉱物・鉱床学 / 下部マントル / 酸化還元状態 / ダイヤモンドアンビルセル / 高温高圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球深部の酸化還元状態を明らかにするための研究を行った。当初の計画通り、昨年度開発した実験技術を用いて地球深部物質の物理・化学的な特性を高温高圧下で決定するための実験的研究を推進した。従来広く用いられてきたレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルに比べ、空間的に均質な高温場を長時間安定的に保持できる内部抵抗加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用い、鉄の融点を高圧力下で決定した。鉄は地球内部の酸化還元状態を支配する元素であり、その高圧下での状態図を作成することは、地球深部酸化還元状態を理解する上でも非常に重要である。従来の内部抵抗加熱装置では100万気圧、2600ケルビン(下部マントル下部領域に相当)程度までしか実験が行えなかったが、技術開発の結果、290万気圧5500ケルビンという非常に高い温度圧力下で鉄の融解実験を行うことに成功した。これはほぼ地球内核外核境界(ICB)に相当する温度圧力である。得られた実験データから地球のICBと核マントル境界の温度を制約した結果、15億年前から今日まで、マントル最下部においてマントル物質のグローバルな溶融は起こっていないだろうことが明らかになった。また、地球内部酸化還元状態が下部マントルにおける融解現象に与える影響を明らかにするため、従来考えられてこなかった三価鉄、Fe3+が固相・液相相関係に与える影響を実験的に決定した。得られた結果から、下部マントル最上部において高酸素雰囲気異常が存在すると融点が大きく下がり、部分融解を起こす可能性が明らかになった。高酸素雰囲気物質に富むメルトが上昇し、下部マントルへ高酸素雰囲気物質が沈み込むことを妨げるようなプロセスが示唆された。本年度の研究成果としては、国際学術誌に7本の論文が公開され、1本の論文が印刷中、4本の論文が査読中である。また国際学会において3件、国内学会において2件の研究成果発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画の一つの柱である内部抵抗加熱式ダイヤモンドアンビルセルの開発に関して大幅な進展があり、既にほぼ地球内核に相当する290万気圧において鉄の融点を決定するという成果を得ている(現在査読中)。これは、当初圧力領域を拡大する目標としていた135万気圧に比べて2倍を大きく超える飛躍的な達成であった。加えて、内部抵抗加熱式ダイヤモンドアンビルセルを改良し、マントル物質の安定相関係や物性を決定する計画も順調に進展している。現在までのところ100万気圧領域において1900ケルビン程度の温度圧力の発生に成功している。 また、マントル超深部がどのような酸素雰囲気にあるのかを明らかにする、という計画目標を達成するため、下部マントル主要構成鉱物に含まれる鉄の電子状態を実験的に調べた結果、36万気圧以上(下部マントルの上部に相当)において僅かな量のFe3+が結晶内で固溶するサイトを変え、それと同時にスピン状態が変化することが明らかになった。 もう一つの目標である、下部マントル浅部と最上部にみられる融体が酸化還元反応誘起である可能性を検証する、という目標に関して、下部マントル浅部条件においての固相・液相相関係に三価鉄が与える影響を実験から明らかにした。地球内部の酸化還元状態とその進化に関して大きな知見が得られた。 また、本研究課題が開始されて2年間の内に13本の論文が国際学術雑誌に受理・出版されている。以上の理由により、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果を踏まえ、放射光施設におけるその場X線回折測定を推進し、マントル物質の高温高圧下における安定相結晶構造決定実験を実施し、より詳細な熱物性パラメータを決定することで本研究計画の目的であるマントル酸化還元状態を明らかにしていきたい。 平成29年度の成果を踏まえ、マントル物質の加熱に対応した改良内部抵抗加熱式ダイヤモンドアンビルセルの達成温度領域を引き上げ、さらにその発生温度場に関して性能を評価する。外核と接するマントル最下部は最大で3~4000ケルビンにも達する超高温領域であるため、少なくとも135万気圧2000ケルビンにおいてマントル物質を加熱することを目標とする。得られた温度場の均質性と安定性を評価し、回収した試料内部に化学的な不均質や予期せぬヒーター材の混入が生じていないかも確認する。その後、放射光施設におけるその場X線回折測定を推進し、マントル物質の高温高圧下における安定相結晶構造決定実験を実施し、より詳細な熱物性パラメータを決定することで本研究計画の大目標である「マントル深部酸化還元状態の解明」を推し進める。同時に、発生可能温度をさらに上げることを念頭に技術開発を続け、酸化還元状態を様々に変えた物質の融点や融解相関係を決定し、もう一つの目標である「マントル最深部における融解現象と酸化還元反応の解明」を推進する。
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Research Products
(12 results)