2016 Fiscal Year Annual Research Report
ベナール対流を利用した酸化物薄膜パターニング:分子デザインの導入による新展開
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16H06054
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
内山 弘章 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (10551319)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分子デザイン / 自己組織化 / ゾル―ゲル薄膜 / 酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、申請者の独自技術である「ベナール対流を利用した酸化物薄膜のパターニング」における新たな試みとして、「分子デザインの導入によるパターン制御の精密化」およびそれを活用した「高機能酸化物薄膜の創製」を目指している。H28年度は、SiO2薄膜を対象として、ベナール対流による自発的な表面パターン形成に適したコーティング液組成の探索を重点的に行った。また、金属Moの電気分解による新規アルコキシドの合成を試みた。 ベナール対流は、薄い層状の液体表面から溶媒が揮発する際に液面近傍に生じる「表面張力の不均一性」が原因となって発生する。Siアルコキシド溶液から作製されるSiO2膜において、コーティング液の表面張力がSiO2膜の厚さの均一性および表面粗さに及ぼす影響を調査した。その結果、エタノールやメタノールなどの表面張力の低い溶媒を用いたコーティング液から作製されるSiO2膜では基材上に平滑かつ均一に膜が形成したのに対して、ジエチレングルコールやエチレングリコールなどの高表面張力の溶媒を用いた場合では、基材上に塗布した液膜内で溶液の流動が発生し、厚さの不均一性や表面粗さの増大を引き起こすことが分かった。これは、「表面パターン制御の精密化」を目指す上で、重要な知見である。 また、金属Moを各種アルコール中で電気分解することで、新規なMo系アルコキシドの合成を行った結果、メタノール中での反応によって、Mo系アルコキシドと思われる結晶を得ることに成功した。次年度において、「単結晶X線構造解析」による正確な分子構造を進める予定である。 H28年度に得られた成果を取りまとめ、次年度に開催される国際会議(19th International Sol-Gel Conference)においてポスター発表を1件予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H28年度は、原料である金属アルコキシドに対する「アルコキシル基の変換」「配位子との錯体形成」「多成分の複合化」による「分子構造デザイン」を中心に研究を進める予定であった。しかしながら、年度初めに大学施設の耐震補強工事に伴う研究室の移転が急遽、実施されたため、予定していた「金属アルコキシドの分子デザイン」のための合成設備・解析装置の設置が大幅に遅れることになった。そのため、研究計画を変更し、上半期は「ベナール対流による自発的な表面パターン形成に適したコーティング液組成の探索」を主な検討事項として研究に着手した。コーティング液の主成分であるアルコール溶媒の表面張力が、最終生成物である酸化物薄膜の表面形状に及ぼす影響について調査を行い、表面張力の高い溶媒を用いてコーティング液の表面張力を高くすることで、基材上に塗布した液膜中で溶液の流動が起こり、表面粗さの増大につながることを明らかにした。この知見は、ベナール対流によるパターン形成の精密な制御を目指す上で、非常に有益な情報であると考えられる。 下半期においては、遅れていた金属アルコキシドの合成設備の準備が整ったため、「金属アルコキシドの分子デザイン」に着手した。金属Moの電気分解による新規アルコキシドの合成を試み、Mo系アルコキシドと思われる単結晶試料を得ることに成功した。正確な分子構造の決定にはまだ至っていないが、年度末に設置が完了した「単結晶X線構造解析装置」を活用することで、次年度早々には構造解析が完了すると予想される。 計画の変更により、「金属アルコキシドの分子デザイン」についてやや遅れが生じたが、その間に上半期で得られた「自発的な表面パターン形成に適したコーティング液組成」に関する知見を「分子構造デザイン」にフィードバックすることで、次年度はスムーズに研究を進めることが可能となり、遅れは十分に取り戻せると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目である平成29年度は、研究代表者と院生Aが継続して①「金属アルコキシドの分子デザイン」を重点的に進め、それと並行して、院生Bが②「ベナール対流によって発現する薄膜表面のセル状パターンのサイズ・形状の制御」に着手する。 ベナール対流は、薄い層状の液体表面から溶媒が揮発する際に液面近傍に生じる「表面張力の不均一性」が原因となって発生する。。溶媒蒸発時に基材上に残留するコーティング層の主成分は“金属アルコキシドおよびその反応生成物”である。したがって、金属アルコキシドの分子構造をベナール対流の発生に最適な形にデザインすることで、より幅広くパターンサイズ・形状をコントロールできる可能性がある。 初年度において「より表面張力の高い構造を有するアルコキシドの合成」について検討し、新規Mo系アルコキシドの合成に至った。本年度は、院生AがこのMoアルコキシドに対して、「アルコールとの交換反応によるアルコキシル基の変換」「キレート剤との錯体形成」「他種アルコキシド(Sn、Zn、Mo系など)との複合化」による“分子構造デザイン”を行う。さらに、研究代表者が、得られたMo系アルコキシドの「単結晶X線構造解析」による正確な分子構造の特定を進める。「単結晶X線構造解析」によって解析した分子構造と、「懸滴法」によって測定したアルコキシドの表面張力の結果をもとに“分子構造・結晶構造と表面張力の関連性”を系統的に調査する。 また、院生Bが、研究室で合成した金属アルコキシドや市販の金属アルコキシドを用いて、実際に表面パターンを有する酸化物薄膜を作製し、「薄膜表面に形成するセル状パターンのサイズ・形状」に及ぼす「金属アルコキシドの分子構造」の影響を系統的に調べる。
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Research Products
(8 results)