2017 Fiscal Year Annual Research Report
真実接触面の直接観察による摩擦・磨耗機構の解明および潤滑剤・接着剤の提案
Project/Area Number |
16H06065
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 隆昭 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (80624840)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ナノトライボロジー / TEM / MEMS / その場観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) DLC摩擦の観察による摩耗粉の運動: 固体潤滑剤として有名なDLC(Diamond Like Carbon)を探針先端に成膜し, 探針を擦り付けることで何が起こるかを観察した. 摺動によってDLC表面に摩耗粉が出現し, その摩耗粉が滑ったり転がったりしている様子を観察できた. 同時に摩擦力を計測し, 力の変化と表面構造の変化の関係も明らかにした. さらに, 接触箇所を直接観察できる利点をいかして, 接触箇所にかかる応力を計算するとGPaオーダーになることが分かった. 従来の摩擦の研究では摩擦力の計測結果だけで何が起こっているのかを議論することが多かったが, ナノスケールの摩擦を理解する上で表面の状況をリアルタイムで観測できる本実験系の手法は摩擦や潤滑の機構解明のために強力な手法であることを実証した. 詳細は数ヶ月後に出版予定の学術論文誌nanotechnologyに掲載が予定されている. (2) Ag, Pt摩擦の観察による溶接説の提案: 摩擦がどうして起こるのか, その根本的な原因は何百年も研究されているのにも関わらず未だに判明していない. しかし, 今回独自に開発した実験系ではナノスケールで観察できるようになったため, その摩擦の起源に迫れるようになった. 観察の結果, (1)接点の形状が液体同士を接触させたような形状で張り付いたこと, (2)接点にかかる応力がGPaオーダーであったこと, (3)擦り付けた後の表面に形状変化があったこと, 以上の3つの理由から, 接触箇所は原子間の力によって溶接されている(cold welding)ことが分かった. 今回の実験によって摩擦の起源は, 原子間相互作用力による溶接に起因しているのではないかという結論に至った. この詳細については論文に投稿中で, 半年後くらいに論文誌に掲載されるように計画している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1) さまざまは試料の観察 : いつかの材料を探針に成膜し, 摩擦による接点の変形をそれぞれの材料で比較する計画であった. 今年度までに, DLC, PTFEといった固体潤滑材や, AgやPtやAuといった材料の観察にも成功している. また, このときの摩擦力や垂直抗力のリアルタイム計測にも成功している. このように, 実験内容は予定通りに進行している. (2) モデルの構築 : 接触箇所の形状や摩擦力の変化を理論的に再現することで, 接触箇所のモデル化を試みた. しかし, 従来の摩擦の研究で広く用いられている弾性体モデル(Hertz接触やJKRモデルなど)では, 今回の実験結果を全く再現できないことが分かった. 原子間相互作用の影響であるためというのは分かったのだが, 本研究で得た実験結果をまだうまく再現できていない. 広く用いられているモデルだけでは再現できないということが分かったのは成果の一つではあるものの, 計画していない新たな作業が発生したため, 少し時間がかかっている. (3) 新たな実験系の構築: 予定では接触箇所の変形をナノレベルで観察する研究計画であった. しかし, TEMの試料ホルダーを新たに開発できたため, 今では50pm(ピコ メートル)の分解能をもつTEMでの観察が可能になりつつある. この実験系が完成すれば, 予定していた「ナノスケールの形状変化と摩擦力の変化との関係を明らかにする」ではなく, 「原子の動きと摩擦力の変化との関係を明らかにする」が可能になるため, より微視的な機構が解明できるようになった. このため, 計画していたより精度と分解能の高い実験系が構築できつつあると言える.
|
Strategy for Future Research Activity |
(1) 機械接点のモデル化 : 弾性変形モデルや連続体モデルといった, 古典的な材料力学の計算だけでは本研究で獲得した実験結果を再現できないことが分かった. そこで, 例えば分子動力学や第一原理計算など, 原子間相互作用の効果を踏まえた計算手法を組み込むことで, 実験結果のモデル化を試みる. (2) 原子分解能の観察を実現するための実験系の開発 : 50pm(ピコ メートル)の分解能を持つTEMに, マイクロマシンを試料として入れるためのTEM試料ホルダーを開発した. しかし, 試料の結晶方位とTEMの電子ビームの方向と一致させないと, 原子を観察できない. すなわち, 試料をTEMの内部で自由に傾斜できるようにしないと, 原子を観察できない. 要は, 試料を傾斜するための回路を作成する必要があるということである. 今後は, 傾斜角度を制御するための制御盤の開発する. この開発によって, 原子分解能を持つTEMの内部にマイクロマシンを入れられる実験系を完成させる. (3) 試料を置く. 任意の試料を自由に観察できる : 昨年度まで用いてきた探針先端に材料を成膜する方法では, 観察できる試料が非常に限られていた. 今年度ではFIB-SEMを使うなどして, 探針先端に目標とする試料を置く手法を構築する. これに研究によって, より多種の材料の観察を可能にする.
|
Research Products
(3 results)