2016 Fiscal Year Annual Research Report
単一細胞内タンパク質のイメージング質量分析を実現する撮像型分子検出器
Project/Area Number |
16H06092
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
全 伸幸 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 主任研究員 (20455439)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 計測工学 / 超伝導検出器 / イメージング質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
イメージング質量分析は、質量差によって識別された分子ごとの分布画像を得ることができる次世代の計測技術である。数10ミクロンサイズの生体試料(例えば細胞)の全面にレーザーを一度に照射して試料中の分子をイオン化させ、検出器まで飛行させる。検出器に到達するまでの飛行時間(TOF: Time-Of-Flight)を測定することで分子の質量が得られる。細胞内に分布していた分子の位置情報は、そのまま、検出器に衝突した位置へ投影される。しかしながら、計測可能な分子量と解像度は分子検出器の性能で制限されており、現在のところ、数100ミクロンサイズの比較的大きな生体組織中に存在する金属イオンなどの軽い分子の分布画像しか得られていない。 一方、我々が初めて実現した超伝導ストリップ線検出器(SSLD: Superconducting Strip Line Detector)は超高感度な分子検出器であり、質量分析装置に搭載してタンパク質などの重い分子を高効率で検出している。SSLDは線幅1ミクロン程度の超伝導ストリップ線をつづら折り形状に加工したものであるが、本研究ではSSLDを発展させて超伝導ストリップ線をマイクロストリップ伝送線路として設計・製作し、タンパク質がSSLDに衝突した位置も決定できる撮像型のSSLDを開発する。単一分子が超伝導ストリップ線に衝突すると、両端から正・負極一対の電流パルスが出力されるが、両端に接続された時間デジタル変換器(TDC: Time-to-Digital Converter)でパルス到達時間差を計測することで分子が衝突した位置を決定できる。本年度はシミュレーションを行い、応答時間が10 ps程度の超高速パルスを伝送可能なSSLDマイクロストリップ伝送線路構造を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの超伝導ストリップ線検出器(SSLD: Superconducting Strip Line Detector)はマイクロストリップ伝送線路として設計されておらず、出力電流パルスの応答時間は電気回路の時定数で決定され、ナノ秒である。本研究では、SSLDを伝送線路として設計・製作し、SSLDが本来有している10 ps程度の超高速応答パルスを伝送可能な検出器構造を実現する。必要となるSSLDの寸法は、測定対象となる細胞の大きさが数10ミクロン、質量分析装置の像倍率が100倍であれば、数ミリ角程度である。本研究では、800ミクロン長の超伝導ストリップ線を40ミクロン角のつづら折り形状に加工したものを1画素とし、2500画素を直列につないで、縦横各50画素で全検出器サイズが2ミリ角の撮像型SSLDを開発する。 SSLDをマイクロストリップ伝送線路構造として実現する上で、デバイス構造は分布定数回路として取り扱う必要があり、デバイスのストリップ線方向の力学インダクタンスLと、ストリップ層、誘電体層、およびグランドプレーン層から成るキャパシタンスCを用いたLCラダーとして回路シミュレーションを実施した。L = 100 pH、C = 0.04 pFとしたLCラダーを、画素数に相当する2,500段だけ直列に接続したシミュレーションにおいて、立ち上がり時間が10~20psの高速パルスを伝送可能である結果を得た。 これまでの研究結果により、L = 100 pHを実現するためには超伝導ストリップ線の材料として窒化ニオブを使用し、C = 0.04 pFを実現するためにはグランドプレーンとして窒化ニオブ、誘電体として窒化アルミを使用すれば実現可能であることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度は、まず、1画素に相当する40ミクロン角のSSLDの両端に時間デジタル変換器(TDC: Time-to-Digital Converter)を接続し、現有の冷凍機に実装する。フェムト秒パルスレーザをSSLDに照射し、パルス発生時刻の揺らぎ(タイミングジッタ)を評価する。タイミングジッタがSSLDの位置分解能を決定する。タイミングジッタはTDCで測定する。次に、2500画素の撮像型SSLDを開発する。レーザー走査機構としてガルバノスキャナーを用いて1画素ごとにレーザーを照射し、位置分解能が40ミクロンであることを実証する。ここで、応答時間が10 ps程度の超高速パルスを、SSLDが動作する低温環境(3 K)から室温動作のTDCまで伝送することが困難である場合は、SSLDと同じ低温環境で動作可能な、超伝導単一磁束量子(SFQ: Single Flux Quantum)で構成されるTDCを用いる。 最終年度は撮像型SSLDを現有の質量分析装置に搭載する。イオン光学系を改造することにより、100倍の像倍率が可能であることをイオン軌道シミュレーションを用いて確認している。次に、集束イオンビームを用いて400 nmの寸法に微細加工された色素試料のイメージング質量分析を実施し、空間分解能が400 nmであることを実証する。色素試料は、イメージング質量分析の性能評価に用いられる一般的な試料である。最終的に、マウス脳神経細胞の測定を実施する。脳神経細胞は細胞の中ではサイズが数10ミクロンと大きく、実証のし易さと成果のアピールの点で最適な試料である。
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