2018 Fiscal Year Annual Research Report
多時点マルチレベルモデルに基づく室内温熱環境の虚弱予防効果の検証
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16H06111
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
安藤 真太朗 北九州市立大学, 国際環境工学部, 講師 (60610607)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 環境調和型都市基盤整備・建築 / 予防医学 / 環境工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、継続して経年データを収集すると共に、これまでの研究成果を踏まえながら以下の研究活動を行った。スケールに応じた概要を示す。
1、住宅内スケール:事業期間内に収集した2年の経年データに基づき、筋肉量の減退に及ぼす影響について検証し、室温が低い住宅の居住者ほど虚弱リスクを有することを確認した。また、前年度に実施した室温と握力に関するマルチレベル分析を応用し、下肢筋力低下や座位時間といった虚弱要因と室温・暖房方式の関係について解析した。その結果、局所暖房を使用する者は全体暖房の者と比較して下肢筋力になるリスクが高くなることや、日レベルの居間室温の上昇や上下温度差の解消によって在宅時座位時間が減少する傾向が示され、室温と暖房方式の改善によって座位時間の抑制される効果が示唆された。その他として、室温と夜間頻尿の関係や睡眠質との関係についても着目し、随時検証している。 2、実験室スケール:モデル住宅において高齢女性を対象とした夏季と冬季の被験者実験を実施し、使用する暖房方式によって居住者にどのような影響をもたらすか検証した。その結果、床近傍が寒冷であると足背部皮膚血流量が低下し、自律神経に悪影響をもたらすことや非冷え性者の方が空調の影響を受けやすいことを確認した。 3、地域環境スケール: 居場所に関する調査を継続し、居場所づくりを促進する環境要因のため、現地調査を行いGIS分析に発展させた。マルチレベルロジスティック回帰分析の結果、花壇の整備されているエリアほど居場所をもつ傾向があることが示唆された。また、北九州市内の調査結果を踏まえて、愛媛県新居浜市においても追加検証を行い、居場所による虚弱予防効果と緑地や公園による外出促進効果を確認した。またその他として、居住者の継続的な歩行に寄与する環境要因についての被験者実験も行い、ここにおいても緑道による歩行促進効果が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究事業では、住環境整備による虚弱予防を目的として、「多時点マルチレベルモデルに基づく室内温熱環境の虚弱予防効果の検証」を達成すべき課題としている。ここでは、断面調査だけではなく日別や年別の繰り返し測定を行い、多時点のデータに基づく多変量解析を実施し、その機序を解明することを目標としてきた。平成30年度においては、これまでの研究成果を充足するために、①追跡調査の継続、②フォローアップデータに基づくコホート分析、③パス解析を含む詳細分析の展開を達成した。以上は、昨年度の推進方策に位置づけていたものであり、すべて達成することができた。特に、「日レベルの室温と個人レベルの暖房方式による居住者の座位時間への影響」や「時刻レベルの温熱環境による滞在者への血流量への影響」等、多くのマルチレベルモデルによって知見を得ることができた。一方で、フォローアップデータに基づく検証については、サンプル数が十分でないためか、分析の精度に疑念が残る状況になっている。翌年度に2年間の経年データが150サンプル程度確保できる予定のため、これらをもって追加検証を行いたい。
以上は本事業の主要な研究テーマとなる住宅内スケールのみの成果であるが、実験室スケールや地域環境スケールにおいても、前述の成果を補完するかたちで様々な成果が得られている。
以上に基づき、おおむね順調に進展している、とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度まで実施した調査や検証によって、これまでに立証した仮説をより高い確度にし、更に、住環境改善に伴う座位時間の抑制効果という予防効果の検証についても達成した。これらについては国内外における学会発表や、国土交通省が管轄する委員会の場などにおいても報告しているが、査読論文化が十分に進んでいない。従って、今後はこれらの課題解決に向けて、①蓄積した多時点データに基づくコホート分析の実施、②査読論文の執筆等といった対策を講じる。また、2年間の追跡調査だけでは住環境と筋力・認知機能に関する関係性が十分に示されない可能性がある。従って③大規模アンケートによる経年検証、といったアプローチも計画していく。以上の実施や、これまでの内容の継続的進行によって、多時点のデータに基づく多変量解析を達成していくと共に、成果を普及させていくことを予定している。
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