2016 Fiscal Year Annual Research Report
資源制約下で物質・エネルギーの生産を可能にする先制的ライフサイクル設計手法の開発
Project/Area Number |
16H06126
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊池 康紀 東京大学, 総括プロジェクト機構, 特任准教授 (70545649)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ライフサイクル工学 / プロセスシステム工学 / シミュレーション / 地理情報システム / シナリオ分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
現行のプロセスやシステムに対して技術を適用したときの物質・熱収支、操作性、環境性といった状態や性能に起こる変化の事前解析に応用できる、ライフサイクル評価やリスク評価、プロセスシミュレーションやエネルギーシステム解析などを統合化することにより、先制的ライフサイクル設計手法(Pre-emptive LCD)の枠組みを考案した。まず、現行のプロセスシステムを解析するためには、ブロックフローダイアグラムやプロセスフローダイアグラムといった既存の描画技法によりバウンダリを設置するが、対象とする範囲は技術・システムを導入する範囲だけでなく、それによって間接的に影響を受ける領域を含む必要がある。例えば、廃棄物処理や系統電源、インフラ整備など、対象としている生産システムの周辺システムが該当する。バウンダリを設定した後、物質・熱、経済、資源のフローを可視化・特定し、それぞれのフローの機構を解明する。例えば、物質や熱であれば導入されている装置、経済であれば原料や製品の価格と廃棄物の処理費用、資源であれば化石資源や鉱物資源といった必要資源を枯渇性-再生可能、局在-非局在、地域性、などといった特徴に合わせて類型化しながら、それぞれ生産システムにおける機能を明らかにする。特定できたフローが技術・システムの導入により受ける変化をシミュレーションできる数理モデルを開発することで、事前に解析をすることを可能にできる。このとき、通常のシミュレーションとの違いは、Pre-emptive LCDがより技術開発の初期段階において実施することを目的にしているためであり、シミュレーションの不確実性の取り扱いを工夫する必要があることが分かった。本研究では実際の技術情報を実際の地域におけるシミュレーションとGISにより可視化しながら、現場の技術者やステークホルダーとコミュニケーションをとりながら研究を進めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論理的な方法論の構築においては、代表者がこれまでに開発してきた各種手法を統合化することで、手法間の共通点と相違点を特定することができた。これは当初の計画通りであり、順調に進展しているといえる。口述するケーススタディでは、ExcelやAspen Plusといった一般的なソフトウェアやシミュレータをつなぎあわせることにより、Pre-emptive LCDの一部を実施できたことから、汎用的な方法論としての提案につなげられうることを、確認できている。さらに、各種委員会や学会活動を通し、広範な著名研究者との討論を実施することができ、安全(安心)性、品質機能性、環境性といった各種観点と技術の関係を整理することができた。 技術情報については、現行のプロセスシステムへの組み込みよって発現する機能とそのときの各種フローに関するパラメタが必須である。特に植物資源を利用する場合、その発生条件(季節、性状、成分、速度など)に合わせて前処理や輸送、貯蔵の必要性が異なることが、ケーススタディにおける現場調査と文献・報告書のレビューから明らかとなった。当初の計画通り、農畜林工間で起こりうる物質循環に関する調査の第一段階が完了し、口述のケーススタディとつなげることができた。 具体的な地域として種子島、紀伊半島、佐渡島を対象とし、各地域の企業、自治体と協力しながら農畜林工の連携と植物資源由来の物質・エネルギーの生産に関する、Pre-emptive LCDのケーススタディの準備を行った。H28年度は概念設計として、各地域で入手可能な資源とそれに適用可能な技術・システムオプションの収集を行い、組合せの可能性を分析した。当初計画において協力企業が決定していなかったが、各地域において協力者を募ることに成功し、プロセスデータの共有や評価結果に関する討論を行える関係を構築できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は論理的な方法論の構築と技術情報データベースの設計、具体的なケーススタディの大きく3つに分割される研究課題である。まず、論理的な方法論の構築については継続して各種評価手法、シミュレーション手法の統合化を実施する。Pre-emptive LCDのフレームワークとして、技術成熟度レベルや社会実装フェーズといった、既存の技術開発に関する段階についての研究成果・報告書を参考にする。同時に、ケーススタディを通しながらより具体的な設計や意思決定の段階を分析し、操作性や経済性といった現場固有の条件に合わせるべき事項についても解析を行う。 技術情報については、特に、ケーススタディにおいて取り扱っている食品工業や廃棄物処理において適用可能な技術・システムを対象として、モデル化やシミュレータ開発に必要となる変数を分析し、技術の属性項目を検討する。 具体的な地域におけるケーススタディと日本全体におけるマッピングについては、現在対象としている種子島、紀伊半島(和歌山県)を対象とし、Pre-emptive LCDにおける各種指標のGISによる可視化を試みる。これにより、地域の資源制約と技術の配置に関する分析手法を考案する。例えば、既存の植物資源変換技術としてバイオマス発電所を取り上げ、地域の森林健全化の観点から可能となる木質資源の供給の制約と、現在の計画の間の関係について解析し、技術導入と資源の関係を明らかにする。
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