2016 Fiscal Year Annual Research Report
金属酸化物の酸化・還元特性を生かした非ラジカル的なC-H結合の選択的酸化
Project/Area Number |
16H06129
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田村 正純 東北大学, 工学研究科, 助教 (10635551)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 触媒・化学プロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
C-H結合の直接変換による官能基導入反応は学術的、工業化学的観点から非常に有用な反応である。ベンジル位やアリル位の1級C-H結合の部分酸化によるアルデヒドへの直接変換は重要な反応であるが、酸素や過酸化物を酸化剤として用いた反応系が大部分であり、ラジカル種による自動酸化が進行することで選択性が低下する。本研究では、金属酸化物の酸化・還元特性に着目し、温和な条件(低温、低酸素圧)下での金属酸化物の2電子還元によるイオニックなC-H結合の酸化、すなわち「非ラジカル的C-H酸化」により高選択的な酸化反応を実現する新規触媒系の開発を目的とする。本年度は、空気下でのメシチレンとアニリンからのイミン合成反応をモデル反応として用い、有効な触媒の開発検討を行った。まず、各種金属酸化物を用いて反応検討した結果、酸化セリウムのみで活性を示した。他の金属酸化物ではほとんど活性がみられなかった。酸化セリウムでは、メシチレンの酸化反応によるイミン合成反応に加え、アミンの酸化カップリング反応によるアゾベンゼン生成も副反応として観測された。そこで、より高選択的触媒の開発として、酸化セリウムに第二金属種を担持させた触媒を用い、触媒機能の比較検討を行った。銅を担持させた酸化セリウム触媒(Cu/CeO2)がアミンの酸化反応を著しく抑制することを見出し、目的生成物であるイミンを高選択的(>90%)に得た。銅担持量の検討の結果、2wt%までは選択性は増加したが、それ以上では選択性の大きな変化は見られなかったことから、最適Cu担持量は2wt%であることも確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主目的はベンジル位のC-H活性化に有効な触媒の開発である。空気下でのメシチレンとアニリンからのイミン合成反応をモデル反応として、酸化セリウムに27種類の金属種を担持させた触媒を、その担持量を0.1, 0.5, 1, 2 wt%に変化させ調製し、反応比較検討を行った。その結果、銅を酸化セリウムに担持させた触媒(Cu/CeO2)が目的のイミンのみを高選択的に生成する触媒であることを見出した。さらに、詳細な銅担持量依存性について検討を行った結果、銅の担持量を増加させることで、アニリンベースでのイミン選択性が向上し、銅担持量が2wt%以上になるとイミン選択性が約90%で横ばいとなった。酸化セリウムのみでのイミン選択性が50%であることを考えると、著しい選択性の向上である。一方、銅の担持量による目的の反応活性の大きな変化が見られないことから、Cuを担持することにより副反応であるアミンの酸化カップリング反応のみを選択的に抑制することに成功していると言える。さらに、長時間反応により、アニリンベースで転化率98%、選択率95%で目的イミンを合成可能であることも確認した。反応機構解析として、酸素濃度依存性検討の結果、酸素濃度が高いほど転化率が高くなる傾向が確認されており、酸素の活性化もしくは酸素供給が律速になっていると考えている。今後、触媒解析および速度論解析を行うことで、触媒の活性種及び反応機構の解明を行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
本反応に有効であったCu/CeO2触媒の触媒構造の解析を行い、触媒活性点構造を明らかにする。触媒解析としては、XRD、プローブ分子吸着FTIR、ラマン分光法、XANES+EXAFS(SPring-8)、TEM、XPS、BET、UV-visなどを用いる。構造解析のカギとなる部分は、酸化セリウム表面に新たに導入した銅種が酸化セリウムとどのような相互作用を持っているか、及び表面銅種の酸化状態がどうなっているかであり、その表面種構造、基質吸着機構の解明を目指す。また、触媒反応特性の検討を組み合わせることで、触媒反応機構の解明も目指す。触媒反応特性については、反応温度依存性(活性化エネルギー)、基質濃度依存性(反応次数)、基質適用性等に関する検討を行い、これらにより得られた結果よ触媒構造解析の結果を踏まえた反応機構を提案する。また、現在の最適触媒であるCu/CeO2触媒でも活性はまだ十分とは言えないため、より高活性な触媒の開発も目指す。そのための方法として、酸化反応で最も重要である酸化セリウムのレドックス性の積極的なコントロールを目指して、酸化セリウムよりも価数の低い金属種をドープした金属酸化物(複合酸化物)を組成をコントロールして調製することで、酸化活性の向上が可能かの検討も同時に行っていく。さらに、他の基質(キシレンやトルエン、アリール化合物)への展開も検討し、触媒系の適用範囲の拡大を画策する。
|