2016 Fiscal Year Annual Research Report
エンハンサー同定の新技術を開発し、腫瘍に認める遺伝子発現異常の原因を解明する
Project/Area Number |
16H06153
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
村川 泰裕 国立研究開発法人理化学研究所, 予防医療・診断技術開発プログラム, マネージャー (50765469)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 遺伝子発現制御 / ゲノム科学 / エンハンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
エンハンサーは、遺伝子の上流や下流や遺伝子内に存在する数百塩基長のゲノム領域である。エンハンサーには転写因子が結合し、標的遺伝子の発現を大幅に増大させる。エンハンサー領域におけるDNAの変異や多型が多様な疾患に関連することが明らかになり、エンハンサーを高塩基解像度および高感度にゲノムワイド同定する手法の確立は急務である。 平成28年度は、エンハンサーを高感度かつ高塩基解像度で同定する新規技術の確立を培養細胞株を用いて行った。まずはじめに、研究計画に従って、細胞から新生鎖RNAを効率的に回収するプロトコールを確立した。このプロトコールでは、細胞から細胞核を単離した後に、変性バッファーにてクロマチン分画を精製する。ウェスタンブロッティング法で分画化の効率を調べると、リン酸化された活性化RNAポリメラーゼIIが回収したクロマチン分画に濃縮しており、対して、細胞質や核可溶分画のマーカータンパク質は検出されず、クロマチン分画が高い精度で濃縮していることが示された。そして、クロマチン分画から回収された新生鎖RNAをinputに用いて、Cap Analsyis of Gene Expresion (CAGE) 解析を行った。通常のトータルRNAを用いたCAGE解析と比較して、本課題で開発した新生鎖RNAを用いたCAGE(NT-CAGEと仮称)では、エンハンサーRNAの検出が飛躍的に向上し、単一サンプルのみからでも高感度のエンハンサー同定に成功した。 本課題により確立したNT-CAGE法は、従来のエンハンサー同定法と比較して、一塩基レベルの高塩基解像度であること、活性化しているエンハンサーのみを同定できること、エンハンサーの活性度も計測できること、単一サンプルのみからでもエンハンサーが同定できる、といった強みを持つ。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度は、予定した通り、単一サンプルのみからでも高感度に高塩基解像度にエンハンサー領域を同定し、さらにその活性度も測定できる新規技術(NT-CAGE法)を培養細胞株を用いて確立した。 これまでのCAGE法と比較して、NT-CAGE法では、エンハンサー同定の感度が飛躍的に向上しており、詳細な転写制御の様子が観測出来ている。本年度の一番肝の部分は新生鎖RNAを効率的にさらに迅速に単離する方法論の最適化であったが、バッファーのextensiveな条件検討を行い、結果として約30分で完了可能であるプロトコールの確立に成功した。 論文(Andersson et al. Nature 2014)ですでに発表されているFANTOM5計画において同定された既知のエンハンサー領域を対象にして、通常のCAGEによるリード数とNT-CAGEによるリード数をもとに、 biological replicate実験間での再現性を確認した。結果として、通常のCAGEとNT-CAGEでは同程度の高い相関を示した。再現性良く高い信頼度で定量的にエンハンサーを同定できることは、クロマチン回収の工程が非常にシンプルでかつ短い時間で完了するプロトコールになるように条件検討をしたことが反映されていると考えられる。また再現性が高く定量的であることは、本技術を腫瘍細胞に適用していく際に重要になる。 またこの実験プロトコールを5種類以上の異なるヒト細胞株(接着細胞、浮遊細胞など様々な種類)に適用しても、安定的なエンハンサー同定の結果が得られた。 このように、robustで高感度にエンハンサーを同定する手法を、H29年度から予定している腫瘍細胞へ適用し、腫瘍を維持している転写制御ネットワークの解明に繋げれる。
|
Strategy for Future Research Activity |
H29年度以降は、複数の異なる細分類の急性骨髄性白血病細胞に、新規のエンハンサーを高感度に同定する技術(NT-CAGE)を適用する。腫瘍において多くの遺伝子発現異常を認めるが、その詳細なメカニズムや原因は不明である。特に急性骨髄性白血病ではエピジェネティクス異常が指摘されている。今回、急性骨髄性白血病に対して、NT-CAGEを適用することで、腫瘍を維持しているエンハンサーやプロモーターを高塩基解像度でゲノムワイドに同定・活性定量し、遺伝子発現の制御メカニズムを解析する。
|