2016 Fiscal Year Annual Research Report
低分子量Gタンパク質R-Rasによる神経管形成制御機構の解析
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16H06163
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
大畑 慎也 武蔵野大学, 薬学研究所, 講師 (00442939)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 低分子量Gタンパク質 / 神経管形成不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経管形成不全は、10,000人あたり3.5人程度が発症する比較的発症頻度の高い神経疾患であり、その病理発症機序の理解は重要な課題である。神経管は、神経板を構成する細胞が集団的な細胞移動をすることによって形成される。この協調的細胞移動は、進化的に保存された平面細胞極性(PCP)制御因子群によって制御されており、これらの遺伝子の変異が神経管形成異常の原因となることが明らかになってきている。 ゼブラフィッシュは、胚が透明で体外で発生し、かつ遺伝学的操作も容易であることから、神経管形成研究の良いモデル生物である。ゼブラフィッシュの脊髄は、神経板を構成する細胞が集団的な細胞移動を行った後に、正中線に沿った対称細胞分裂を行うことによって形成される。PCP因子の一つである4回膜貫通型タンパク質Vangl2の遺伝子に変異を持つ突然変異ゼブラフィッシュでは、細胞集団の移動が遅延するものの、対称細胞分裂の時期は影響されないため、脊椎が左右に二重に形成される(Tawk et al., 2007, Nature)。しかし、PCP因子がどのような情報伝達機構によって制御され、神経管形成に関わるのかについては、不明な点が多く残されている。 申請者は、神経幹細胞の細胞極性維持に関与する因子を探索する過程で、情報伝達経路の分子スイッチとして機能する低分子量Gタンパク質の発現抑制が、vangl2突然変異体と同様の神経管形成異常を引き起こすことを見出した。本申請課題では、低分子量Gタンパク質に注目し、神経管形成における役割を明らかにすることを目的としている。本研究は、神経管形成における低分子量Gタンパク質の生理的役割の理解を拡大するだけではなく、神経管形成異常の病理発症機構を明らかにし、その診断・予防法開発に貢献することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野生型ゼブラフィッシュの脊髄神経管内腔は正中線上に形成される。我々は、神経幹細胞の細胞極性維持に関与する因子を探索する過程で、アンチセンスモルフォリノヌクレオチド(AMO)を用いて低分子量Gタンパク質R-Rasの発現を抑制すると、脊髄神経管内腔が左右に2つ形成されることを見出した。この神経管形成不全は、AMO耐性の野生型rras mRNAを注入することによって回復したことから、R-Rasは神経管形成に機能する事が期待された。近年、AMOは標的外効果(off-target effect)によってp53依存的細胞死を引き起こすことが報告された。R-Ras発現抑制胚における神経管形成不全がp53依存的であるかを検証するために、rras AMO とp53 AMOを同時にゼブラフィッシュ胚に注入したが、表現型は抑制されなかった。この結果をさらに検証するために、Crispr/Cas9システムを用いて遺伝子破壊ゼブラフィッシュ系統の作出を目指した。5種類のガイドRNA(gRNA)を作製し、野生型ゼブラフィッシュ胚に注入した。これらのうち2種類のgRNAを用いた場合に遺伝子編集が行われることをPCRによって確認し、成魚を得た。これらのゼブラフィッシュの中から、フレームシフトを起こした部位から近い位置で停止コドンが現れる2個体を選別し、ゼブラフィッシュrras変異系統を2系統樹立した。さらに、rrasのGTPase活性活性化因子であり、マウスで神経管形成異常が報告されているPlexinB2(ゼブラフィッシュではplexinb2aとplexinb2bが存在)についても、変異系統を樹立した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度樹立したゼブラフィッシュrras変異系統を用いて、R-Rasが神経管形成に置いて果たす役割を形態学的に解析する。始めに、rras+/-同士を掛け合わせ、rras-/-における神経管の形態を観察する。rras-/-で神経管形成に異常が観察された場合には、in vivoタイムラプスイメージングによって、神経管形成のどのステップで異常が生じているのかを解析する。異常が観察されない場合には、母親由来のrras mRNAやR-Rasタンパク質によって神経管形成が正常に進んでいる可能性が考えられる。そこで、rras+/-オスとrras-/-メスを掛け合わせ、胚と母親の両方のrrasを破壊した状態での神経管形成への影響を検討する。 rras AMOによって観察された神経管形成不全の表現型は、平面細胞極性制御因子Vangl2の変異ゼブラフィッシュ胚で観察されたものと非常によく似ている。そこで、R-RasとVangl2が物理的、あるいは遺伝学的に相互作用するのかを検討する。物理的相互作用を検討するために、培養細胞にVangl2あるいは野生型や各種変異型(GTP結合型やGDP結合型を模倣する点変異体)のR-Rasを強制発現させ、免疫沈降を行う。次に遺伝学的相互作用を検討するために、vangl2変異ゼブラフィッシュとrras変異ゼブラフィッシュを掛け合わせ、二重変異胚を得る。野生型胚、rras変異胚、vangl2変異胚、rras, vangl2二重変異胚における神経管形成を比較することによって、これらの遺伝子が遺伝学的に相互作用するのかを検討することができる。
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