Outline of Annual Research Achievements |
Gタンパク質共役受容体は, リガンドや光などの細胞外シグナルを受容し, G タンパク質の活性化を介してシグナルを細胞内へ伝達する機能を担う生理現象に不可欠な 7回膜貫通型受容体である. 細胞表面には様々な受容体が存在しているが, GPCR ファミリーは生体のあらゆる細胞に存在しており, 生命維持に不可欠な機能のほぼ全てに関与しているため, 生理現象を理解するために極めて重要である. 近年, 結晶構造として, GPCRのモデルタンパク質であるβ2アドレナリン受容 体の活性型構造が決定され, 結晶構造解析に基づ く分子レベルでのシグナル伝達モデルが提案された. シグナル伝達モデルによると, 膜貫通ヘリックスや, 細胞内領域に結合する G タンパク質と相互作用するループ領域は, 伝達過程で重要な役割を果たしていると予想されるが, これらの構造領域は揺らぎが大きいため, 実験的な構造決定が困難である. 故にに, ヘリックス領域に変異を導入したりループ領域を削除することで, 結晶構造が決定されてきた. しかし, これらの改変は野生型構造本来のリガンドに対する親和性や活性能に影響を与える可能性があるため, 詳細な伝達機構は不明である. 初年度は, 改変を取り除いた理想的システムを全原子モデルで構築した. 更に, 実験的探索が困難な揺らぎの大きい膜貫通領域, 及び細胞内ループ領域に存在する伝達経路を計算機シミュレー ションにより明らかにするために, 研究代表者が開発を進めてきた遷移経路探索法であるparallel cascade selection molecualr dynamics (PaCS-MD)の拡張を行った. 特に, PaCS-MDとマルコフ状態モデルを組み合わせることで自由エネルギー評価を可能にし, 膜外から受容体に結合するリガンドに関する結合素過程を解析中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Gタンパク質共役受容体が細胞外からリガンドを認識し, 膜タンパク質内の構造変化(ヘリックスの再配向)を介して細胞内にシグナル伝達する過程を研究代表者が開発中の遷移経路探索法(PaCS-MD: Parallel cascade selection molecular dynamics)で抽出することを試みた. PaCS-MDは, 初期構造の異なる複数の短時間MDを独立かつ超並列に実行することで, 効率的に構造遷移経路を抽出する方法である. これまでのPaCS-MDのアプリケーションでは, システムサイズが比較的小さいタンパク質に適用することがほとんどであったが, 本研究では膜タンパク質であるのでシステムの総原子数が大きくなり, 1回の構造リサンプリングに必要な初期構造を増やす必要が生じた. 加えて, 総原子数の増加に伴い, 初期構造あたりの計算時間も増えることから, 搬入予定である計算機の性能を見直す必要が生じた. そこで, 当初搬入予定だったCPUベースの計算機クラスタから, GPU(演算加速装置)ベースに仕様を変更した. これにより, 計算機搬入予定の遅延が生じてしまったため, 研究進捗に遅れが生じた. 計算機搬入までの期間は, PaCS-MDで抽出したリガンド結合経路を評価するための自由エネルギー計算法の開発を進めた. PaCS-MDのこれまでの問題点として, 抽出した遷移経路の定量的な取り扱いが難しいことが挙げられていたが, この問題点を克服することを試みた. 特に, PaCS-MDでサンプルしたトラジェクトリ(原子座標)に関して, 状態間の構造遷移をマルコフ過程と過程し, マルコフ状態モデルを構築することにより, 構造遷移経路を自由エネルギー地形上で定量的に評価可能な様に拡張した.
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Strategy for Future Research Activity |
GPUベースの大型計算機に仕様を変更することにより研究推進に遅延が生じたが, 搬入期間にPaCS-MDとマルコフ状態モデルを組み合わせた自由エネルギー計算手法の開発を進めることが出来た. 具体的には, 比較的小さな生体分子でテスト計算を行い, 構造変化に関する自由エネルギーを高精度に計算することに成功した. GPUベースの計算機に仕様変更することで, 1回の構造リサンプリングで計算可能な初期構造の増大と計算時間の短縮が期待出来ることから, Gタンパク質共役受容体にも十分適用可能であると予想される. 現在では, PaCS-MDとマルコフ状態モデルによる自由エネルギー計算を自動化するプログラムを作成し, ほぼ完成状態にある. 今後は, 自由エネルギー計算手法の研究成果を論文にまとめる作業に取りかかる. 計算機の搬入に時間がかかっているが, 今後は, PaCS-MDと開発している自由エネルギー手法を駆使することにより, 迅速に遅延分の研究内容を推進していきたい.
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