2017 Fiscal Year Annual Research Report
A landscape community genomics approach for eco-evolutionary feecback in the field
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16H06179
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
内海 俊介 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (10642019)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生態ー進化フィードバック / 群集 / 遺伝的多様性 / SNP / 河畔林 / 生物多様性 / メタゲノム / 共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道大学雨龍研究林に生育するケヤマハンノキ(以下ハンノキ)のゲノムワイドな一塩基多型情報を取得し、その遺伝変異の情報によって樹上の昆虫群集の構造がどの程度予測できるかを調べた。周辺植生情報や空間地理情報という景観情報に比べ、ハンノキ遺伝情報は遥かに高い予測精度を示した。複雑な自然生態系において,植物の遺伝子が従来考えられていたよりかなり強く生物の集合に影響していることを示す。一方,遺伝変異はハンノキの基礎的な機能形質にも影響していたが、それらの形質群による昆虫群集の予測制度は高くなかった。二次代謝物質など多様な植物形質が昆虫の集合に波及効果を持つかもしれない。この成果は国際誌に受理された。 次に、ハンノキに共生する窒素固定細菌フランキアについて、樹木個体・局所・景観という多階層空間スケールにおける遺伝構造を明らかにするために特異領域アンプリコンのメタゲノム解析を行った。85個体のハンノキ(上の昆虫群集を調べた個体)から7個ずつ根粒塊を採取してこれを行った。あわせて12地点の周辺土壌からDNAを抽出し、同領域についてメタゲノム解析を行った。その結果、木1個体は普遍的に複数遺伝子型のフランキアと共生していることが明らかになった。どの木もほぼ共通して有する遺伝子型が4タイプあり、それらは系統的に離れていた。加えて特定の遺伝子型タイプがさらに共生しているグループがあること、個体ごとに特異な遺伝子型とも共生していること、などのパターンが検出された。さらに土壌には共生する遺伝子型より5倍も多様な遺伝子型のフランキアが存在することが分かった。これらはすべて新規な知見である。 同時に今年度は、この各調査地点において、土壌の無機体窒素量の計測、ロガーによる温湿度情報の収集、ハンノキ葉の窒素同位体の計測、ヤナギルリハムシのSNP解析と性比解析を進めた。それによって厚いデータが得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年はケヤマハンノキのゲノムワイドな遺伝変異情報による自然生態系における昆虫群集の構造の予測、というテーマについて解析が進み、Molecular Ecology誌に受理されるにいたった。この成果についてはプレスリリースを発行し、日本語媒体/英語媒体のさまざまなウェブニュースサイトやSNSで取り上げられるというインパクトがあった。まだ公開されていない媒体でも取材を受けているところである。 また、窒素固定細菌のメタゲノム解析が順調に進んだことも大きな進展である。サンプル採取から始まり、DNA抽出、PCR増幅、ライブラリ調整までを自らの手で行うことができ、データとしても実績欄で記述したように非常に興味深い新規なものが得られてきている。 本科研費で雇用していたポスドクが今年度異動になり、新たに雇用した技術補助員への技術指導が難航するといった問題点も出たが、土壌の無機体窒素量の計測、ロガーによる温湿度情報の収集、ハンノキ葉の窒素同位体の計測、ヤナギルリハムシのSNP解析と性比解析なども実施することができた。 以上により、本研究課題はおおむね順調に進展させることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの成果を踏まえ以下の4つの軸で推進する。(1)ヤナギルリハムシのドラフトゲノム配列をもとにSSRマーカーのマルチプレックス系を構築する。前年度の解析より抽出されている適応形質に関連するSNPマーカーの遺伝解析も進める。この二つのジェノタイピング系を併用して大規模遺伝解析を行い、適応進化と中立過程の時間動態のリアルタイム・モニタリングを行う。さらに、北大雨龍研究林内における環境データと生物データの収集を継続し、景観群集ゲノミクス・アプローチによる群集生態―進化動態の本格的な解析をすすめる。(2)これまで天然林を対象としているが、その比較系として人間活動によりハビタット断片化が進む地域についても調査を実施する。北海道石狩川水系をモデル系とした群集生態―進化動態の解明を行う。この流域の上流から下流部に注目することで、ハビタット断片化と人為的影響のグラディエントが得られ、そのグラディエントに沿った生態-進化動態の変化を明らかにすることができると考えられる。そのために、この流域を網羅した生物群集調査、環境調査、生物サンプリングを行う。結果を北大研究林の解析結果と比較することによって、分散制約とボトルネックがある場合とない場合での生態―進化 動態の違いを明らかにする。(3)河畔林生態系の重要な構成要素として土壌微生物群集のゲノム解析もさらに行う。ハンノキを宿主とする共生バクテリアであるフランキア類の多型解析、そしてその他の土壌菌叢の多様性解析をメタゲノミクス・アプローチによって調べ、(2)の結果との関連を明らかにする。(4)局所的な節足動物群集の構造が複数の生態系基盤種の適応進化を左右し、それが再び節足動物群集全体の構造へフィードバックするシナリオ(=拡散共進化群集)をメカニスティックな仮説として設定している。この仮説を詳細に検証する大型メソコスムで野外操作実験を継続する。
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