2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study on skeletal muscle proteolysis due to systemic metabolic dysfunction in broiler chickens exposed to heat stress
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16H06205
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
喜久里 基 東北大学, 農学研究科, 准教授 (90613042)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 暑熱ストレス / ミトコンドリア / 活性酸素 / 筋タンパク質分解 / α-トコフェロール / 胆汁酸 / ホルモン |
Outline of Annual Research Achievements |
暑熱環境下のニワトリ体内では酸化ストレスを始め、骨格筋タンパク質分解亢進や内分泌・炎症などの様々な生体変化が生じる。前年度において、暑熱ニワトリの骨格筋タンパク質代謝変動は同組織におけるミトコンドリア活性酸素(mitROS)過剰産生が重要な役割を担っていることを明らかにした。本年度では、mitROS産生制御タンパク質である脱共役タンパク質(UCP)発現に関わるホルモン、ならびに活性酸素産生を抑制するα-トコフェロール(α-Toc)、種々の生理・病理学的状態において筋タンパク質分解亢進作用が報告されている炎症性サイトカイン、タンパク質代謝の上流因子に作用するとの報告がある胆汁酸に着目し各々解析を行った。甲状腺ホルモン(T3)・ノルアドレナリン(NA)はUCP発現の上方制御因子であり、暑熱ニワトリではこれらの血中濃度が減少していた。この結果より、T3・NA → UCP発現低下 → mitROS産生増加 →筋タンパク質分解亢進といった代謝フローが存在することが示された。暑熱ニワトリの血中α-Toc含量は飼料摂取量の低下にともない低下傾向を示したが、酸化ストレスが生じた骨格筋中ではその含量に違いは認められなかった。この結果より、α-Tocは活性酸素過剰産生の誘導要因ではないことが示され、筋タンパク質分解亢進に大きく関与する因子ではないことが示された。炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン(IL)6を測定した結果、骨格筋中の同因子の遺伝子発現量および血中濃度に暑熱の影響は認められなかった。排泄物中の総胆汁酸量は暑熱負荷によって有意に低下したが、血中のそれに違いは認められなかった。以上の結果より、本年度に解析した因子(総胆汁酸、α-Toc、IL6)は暑熱ニワトリで生じる筋タンパク質分解亢進に関わっていないことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究より、暑熱ニワトリにおける骨格筋タンパク質分解ならびにその主要誘導因子であるmitROS過剰産生をもたらす血中因子の絞り込みが着実にできていることから、研究はおおむね順調に進展していると言える。古くから、T3およびNAは暑熱時において血中濃度が変動することが報告されており、本年度でもその現象を確認することが出来た。特にT3についてはこれまでの研究より、その血中濃度の低下は筋タンパク質合成低下に関与するとの考えが広く浸透している。本年度の研究より、同因子の変化はUCP下方発現 → mitROS産生増加 → 筋タンパク質分解のプロセスを始動することも示され、暑熱時における筋タンパク質の合成と分解の負のバランスを決定づけている可能性が推察された。α-Toc、IL6、胆汁酸に関しては骨格筋のタンパク質分解亢進における役割は見出されなかったが、裏を返せばこれらは暑熱時の代謝破綻ネットワークの歯車を担っていないことが暗に示された。本研究では、骨格筋のタンパク質代謝を主な解明ポイントにしているが、暑熱時のニワトリでは胸腺や脾臓などの主要の相対重量(%体重)が低下し、酸化ストレスの亢進や一部免疫機能の低下が最近明らかになっている。血中α-Toc濃度の低下はこのような骨格筋以外の器官に影響を及ぼしているかもしれない。また、血中の胆汁酸量は暑熱によって変化しなかったが、排泄物中の胆汁酸量(mmol/g)は暑熱によって低下したことから、これは脂質の消化吸収能が低下している可能性を示唆する。このように、本年度に得られた成果は大なり小なり暑熱時の代謝破綻ネットワークの理解に向けて重要な情報となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度から研究の最終年度においては、暑熱ニワトリの骨格筋タンパク質代謝変動をもたらし得る血中因子の解析に加え、培養筋細胞を用いた因子候補の実質的作用を検証する。H30年度では、本年度に実施できなかった血中の一次胆汁酸の量的変化を解析する。これにあたっては前年度と同様に動物実験を行い、血中胆汁酸はGC、GCMSあるいはLCMSで解析し、変化が認められた因子は引き続き培養細胞実験を用いてその実質的作用を検証する。 また、H28年度に明らかになった暑熱ニワトリにおけるアミノ酸の変動に再着目し、抗酸化システムに寄与するアミノ酸:グルタチオンおよびその合成基質メチオニンやグリシン、カルノシン・アンセリンや、非タンパク質構成アミノ酸の動態変化を骨格筋のみならず他の組織・器官中の変動を網羅的に明らかにし、暑熱ニワトリでは抗酸化関連アミノ酸が飼料摂取量の低下にともないどのようにして配分(再配分)あるいは生成されているのかを明らかにする。進捗状況に応じて、栄養素吸収に関わるトランスポーターの小腸における遺伝子発現量の変化なども明らかにし、暑熱時に生じる顕著な変化:アミノ酸類の動態の観点から、骨格筋タンパク質代謝変動をもたらし得る因子を明らかにする。
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Research Products
(3 results)