2016 Fiscal Year Annual Research Report
Precise determination of the proton charge radius by electron scattering off proton at ultra-low momentum transfer
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16H06340
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
須田 利美 東北大学, 電子光理学研究センター, 教授 (30202138)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊永 英寿 東北大学, 電子光理学研究センター, 准教授 (00435645)
塚田 暁 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (10422073)
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Project Period (FY) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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Keywords | 陽子荷電半径 / 電子弾性散乱 / 極低運動量移行領域 / 電荷形状因子 / 陽子半径パズル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、宇宙を構成する物質の基本要素である陽子の大きさに関する「陽子半径問題」として知られている現代物理学のパズルの解決が目標である。 陽子荷電半径の決定法には電子散乱と水素原子の分光の2種類がある。電子散乱法では、陽子との弾性散乱断面積から荷電形状因子を分離・決定し、電子散乱過程の運動量移行の関数から荷電半径情報をひきだす。一方、水素原子分光では、陽子を周回する電子(あるいはμ粒子)のエネルギー準位に僅かに現れる陽子の有限の広がりの影響を電磁量子力学を駆使して決定する。μ粒子と陽子からなるμ水素原子から求めた荷電半径が、電子散乱や通常の水素原子から求めた荷電半径と大きく食い違うことが確認され、これが「陽子半径問題」である。実験データあるいはその解釈が正しいとすると、電子とμ粒子では陽子との相互作用が違うことを意味し、素粒子物理学の標準理論の破れと関連する可能性もあるため、世界各地で盛んに研究が行われているのである。 最も標準的と考えられてきた電子散乱実験による陽子半径決定に潜むモデル依存性が指摘され、その解決には低エネルギー電子ビームによる可能な限り小さな運動量移行領域での電子散乱測定の重要性に我々は気がついた。そこで、東北大学電子光研究センターの低エネルギー電子加速器を利用し、前例のない極低運動量領域での電子・陽子弾性散乱実験により信頼度・精度ともに最も高い陽子の荷電半径値の決定が本研究の目標である。 この研究の推進のために、電子光研究センター実験室に高分解能電子ビーム輸送系と高運動量分解能散乱電子検出器系を新設し、極低運動量移行領域を覆った運動学での電子・陽子弾性散乱断面積を測定する。現時点で、この運動学での電子散乱実験を遂行できる電子加速器施設は世界で東北大のみであり、低エネルギー電子加速器で現代物理学が抱える大問題解決に向けた世界先端の研究を推進する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究遂行に必須な実験装置を建設するために基盤研究Sを申請したが、必要額である2億円に対し採択時の予定内示額は申請額の63%であり7000万円減額されてしまった。 本年度は、どこまで実験装置の性能を落とし目標を諦めれば、内示された予算内で研究装置が建設できるかの検討でほとんどの時間を費やしてしまった。7000万円の不足分を補うために、ビームライン用あるいはスペクトロメータ用の電磁石の一部を他の研究所で利用されていない電磁石借用の可能性、またこの実験で使用する多数の高精度直流電源も国内の他の研究所からの調達の可能性、そして真空ポンプや検出器、信号処理回路に至るまで、本研究遂行に必要だが科研費の不足分をおぎなう物品を求めて日本各地の研究所を尋ね再利用可能品を捜し回った。本年度のほぼすべての時間は、研究計画の抜本的な見直しとこの作業で費やされ、物理研究を進めることはほとんどできておらず、申請書に記した今年度の研究はほとんどできなかった。 何点か再利用可能な電磁石などのめどが付きつつあり、それらを有効利用できるよう実験装置の再検討を進めている。上記作業と平行して、研究代表者や分担者とともに中心的に進めていただく若手研究者1名の公募ならびに選考をおこない、次年度から同研究者とともに、遅れを取り戻すべく検討を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、加速器からの電子ビームを研究に必要な高運動量分解能化(運動量広がり10**-3)するための多段のスリットを含む電子ビーム輸送系と陽子との弾性散乱を同定するための高運動量散乱電子測定系を主装置とした実験系を建設する必要が有る。前述のように全く予算が足りない状況であるが、実験を遂行するには、上流の電子ビーム輸送系から建設せざるを得ない。 現実的には、当初予定の半値以下の予算で電子散乱場所まで加速器からのビームを導く高分解能ビームラインを建設する必要があり、今後も引き続き日本各地の加速器施設で借用可能で再利用できる電磁石、電源、真空ポンプなどをさがす努力を継続せざるを得ない。電子ビーム輸送系の建設には、電子光理学研究センターの技術職員の全面的な協力のもと建設を進める。 また、上記ビーム輸送系検討・建設と並行して、最下流に設置予定の高運動量分解能を有する散乱電子検出用電磁石スペクトロメータの検討を進める。検出系を可能な限り安価に仕上げるために、電磁石形状の工夫で必要な高運動量分解能が達成できるかを中心に検討し、今年度内に方針を決め来年度の建設にむけた準備を進める。
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Research Products
(10 results)