2018 Fiscal Year Annual Research Report
神経行動形質を決定付ける遺伝子―環境相互作用の細胞機構
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16H06371
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Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
山元 大輔 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 上席研究員 (50318812)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 賢一 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80214873)
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Project Period (FY) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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Keywords | 神経可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳のlateral protocerebrumと呼ばれる領域を支配する20個の雄特異的介在ニューロンからなるP1クラスターが雄の求愛行動を開始させることは、我々や他の研究グループによって繰り返し確認されている。しかし、P1ニューロンが求愛解発刺激を統合し、求愛の意志決定を実行する細胞機構については、ほとんど不明であった。その解明には、P1ニューロンでの情報演算の過程を電気現象としてとらえることが不可欠である。しかし、ショウジョウバエ中枢ニューロンからの細胞内電位記録は技術的に難しいため報告はわずかしかなく、特にP1ニューロンからは、成功例がこれまでなかった。我々は、被験個体の頭部背側のクチクラを一部切り取って脳を露出させ、露出部のみを人工液で灌流しつつ、GFP標識したP1ニューロンに顕微鏡下で電極を誘導する手法を確立した。このようにin vivo whole cell patch clamp下に置かれた被験個体は脚を自由に動かして“行動”し、1時間程度にわたって単一細胞からの電気活動記録が可能であった。これによりP1ニューロンの電気生理学的特性を定量的に解析することが可能となり、単独飼育個体と集団飼育個体の複数個体から記録を得て、飼育条件(社会経験剥奪の有無)がもたらす特性変化を発見した。P1ニューロンからのwhole-cell patch-clamp記録により、膜電位固定下で記録されるのは主に3種の外向きK+電流であった。重要な点は、集団生活個体と隔離個体とを比較するとそれぞれのK+電流成分が占める割合(電流密度)は明確に異なっていたことである。興味深いことに、野生型とfruitless変異体とでは、異なるK+成分が経験依存的に変化した。これらの結果から、P1ニューロンに集団経験を記録する一つの機構は、K+電流の修飾であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
運動視感覚情報の処理に関わるニューロンのCa2+イメージングによる活動記録を光遺伝学的による行動の強制誘導実験と合わせて実施し、大きな成果が上がった。さらに活動中のニューロンのシナプス後細胞を標識するtrans-Tango法(Talay et al., 2017, Neuron 96, 783-795)が新たに利用可能となったため、この解析はさらに加速される。また、in vivo whole cell patch-clampによる電気活動記録は、P1という小型で非スパイク発生型の介在ニューロンという不利な条件にも拘らず十分に安定した記録が取れており、さらには社会経験の有無に依存した非シナプス性電流に明確な変化を見出している。したがって、実験計画のうちの最も予測困難なハードルは超えたといえる。こうした理由から、特に細胞レベルの研究が順調に進んだと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
コアプロモータ因子として知られるTRF2(正の転写因子)が、FruM標的遺伝子のrobo1のプロモータ中の TCT-DREAM配列(FruM結合配列に隣接)に結合することを見出した。結合の結果、FruMの転写抑制作用が強められ、性差のある神経突起の形成が起こる(及び末端部構造が変化する)ことを発見した。もう一つの発見は、FruMが転写因子としてではない別の作用を持つことである。すなわち、同じBTB-zinc finger familyに属するLolaタンパク質のアイソフォームの一つ、LolaQが、雄では完全長で発現してニューロン突起を誘導する(雄化因子として機能)のに対し、雌ではN末端263残基がユビキチンプロテアソーム系によって取り除かれて雌化因子となり、突起形成が抑制される。加えて、雄では雄特異的タンパク質であるFruMがLolaQのN末にBTBドメインを介して結合し、LolaQを分解から守っていること(FruMの新規の機能)が判明した。全長型LolaQがFruM標的遺伝子であるrobo1のプロモータに結合して転写を抑制するが、このLolaQ結合サイトはFruM結合サイトのすぐ隣にあることを明らかにした。このようなFruM結合サイトを挟んで存在する二つの協力因子の標的配列は、行動変容に伴って転写レベルの変化する遺伝子群のうちのどれが本命なのかを知る上で極めて有益な特徴であろう。現在、経験依存的な行動変化をもたらす転写レベルの変化をPolII結合プロファイル解析によって捉えるべく実験を進めており、そこで浮上してくる候補遺伝子を“3種のコンセンサス配列の有無”という踏み絵によって分別することで、遺伝子候補の絞り込みは効率的に実行できると考えている。
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Research Products
(27 results)
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[Presentation] The neural mechanism underlying evolution of mating preference2018
Author(s)
Ishikawa, Y., Maeda, N., Mochizuki, K., Nomura, G., Kamikouchi, A. and Yamamoto, D.
Organizer
The 46th Naito Conference: Mechanisms of Evolution and Biodiversity
Int'l Joint Research
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[Presentation] An attempt to identify the neurons that are responsible for species-specific behavior using the flip-out mosaicism in Drosophila subobscura.2018
Author(s)
Tanaka, R., Higuchi, T., Kohatsu, S., Sato, K., Awasaki, T. and Yamamoto, D.
Organizer
第13回日本ショウジョウバエ研究会、京都
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