2019 Fiscal Year Annual Research Report
Mechanism of Hit-and-Run oncogenesis by the Helicobacter pylori CagA oncoprotein
Project/Area Number |
16H06373
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畠山 昌則 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (40189551)
|
Project Period (FY) |
2016-05-31 – 2021-03-31
|
Keywords | 発がん / ヘリコバクター・ピロリ菌 / 胃がん |
Outline of Annual Research Achievements |
ピロリ菌CagAが宿主胃上皮細胞のゲノム安定性に与える影響を検討した結果、CagA発現によりゲノムDNAの二本鎖切断(DSB)が誘導されることを見出した。さらに、このDSB誘導がCagAによるPAR1bのキナーゼ活性不活化により惹起されることを明らかにした。そこでPAR1bリン酸化基質候補分子の網羅的探索を行ったところ、DNA複製フォークの安定性維持に重要な役割を担う分子Xを同定した。複製フォークの不安定化は フォーク崩壊を介して二本鎖DNA切断を直接誘導することから、CagA依存的なPAR1b不活化によるこの分子Xの機能阻害が DSB誘発の直接的な原因になることが明らかとなった。ピロリ菌CagA発現により誘導されたDSBは相同組換えではなく易変異性の非相同末端結合(NHEJ)を介した機構により効率よく修復されるため、遺伝子変変異を伴うゲノム不安定性が高率に誘導されることが判明した。 ピロリ菌CagAタンパク質をマウス個体内で誘導発現させるため、β-actin (CAG)プロモーターとcagA遺伝子間にloxP-STOP-loxP (LSL) カセットを挿入した発現ユニットをROSA26遺伝子座に導入したマウス(CAG-LSL-cagA-ROSA)を作成し、このCAG-LSL-cagA-ROSAマウスとCAG-CreERマウスあるいは胃粘膜特異的なCreER発現マウスを交配しコンパウンドマウスを樹立した。これらCagA誘導発現マウスにピロリ菌CagAを発現させ、消化管粘膜を中心に病変の発症を継時的に観察している。現在までに、一部のマウス胃粘膜において腫瘍性病変の発症を認めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ピロリ菌感染を起点とする「Hit-and-Run」型の胃発がんが成立するためには、胃発がんプロセスの初期過程進行を司るピロリ菌由来発がんタンパク質であるCagAの機能的役割が、多段階発がんの進行に伴い宿主細胞側のゲノム変異に置き換えられていくプロセスが必要と考えられる。2019年度の研究成果から、CagAがPAR1bのキナーゼ活性不活化を介してゲノム不安定性を誘導する分子機構、とりわけ PAR1bがリン酸化基質とする「複製フォークの安定化ならびにゲノムの相同組組換えに関与するゲノム安定化分子」の同定に成功した。宿主胃上皮細胞内に侵入した CagAは、PAR1bのキナーゼ活性不活化を介してゲノム不安定性を著しく増強することで宿主細胞内ドライバー遺伝子の変異を促し、CagA非依存的な胃発がんプロセスへと変換することを明らかにした。この成果は、本研究が最終目標とする「Hit-and-Run発がん」の分子機構解明に大きく迫る重要な発見であると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
胃上皮細胞内に侵入したピロリ菌CagAはPAR1bと複合体を形成することで、 PAR1bでのキナーゼ活性を抑制する。PAR1bは元来細胞極性に関わるキナーゼとして単離されたが、これまでの研究から、1) ピロリ菌CagAが PAR1bを介して宿主細胞ゲノムのDNA二本鎖切断 (DSB)を誘発する、2) この DSB誘導はCagAによるPAR1bのキナーゼ活性抑制に依存する、ことが明らかとなった。これは、ピロリ菌CagAが極性制御キナーゼAR1bを介して宿主細胞にゲノム不安定性を惹起するという驚くべき発見であり,「Hit-and-Run発がん」の鍵を握る CagA依存的な発がんプロセスからCagA非依存的な発がんプロセスへの移行が、 CagAにより誘発されるゲノム不安定性を基盤に引き起こされることを強く示唆している。今後の研究では、CagA-PAR1b相互作用が誘導するゲノム不安定化を介して、その変異ががん前駆細胞のCagA依存性からの脱却ならびにその後のピロリ菌非依存的細胞発がん過程を司るゲームチェンジャー遺伝子の同定を目指す。 一方、昨年度の研究により、PAR1bが細胞密度の増大などで活性化されるHippoシグナルを制御するキナーゼとして働くことを明らかにした。この結果は、CagAによるPAR1b の不活化が、Hippoシグナル制御機構を破綻させることを示している。Hippoシグナルはこれまで発がんに対して抑制的に働くと考えられてきたが、より最近の研究からHippoシグナル活性化が個体レベルでの発がんに対して有利に働く状況が存在することも示唆されている。すなわち、発がんとHippoシグナルの関係は文脈依存的であり、今後の研究を通してCagA-PAR1b複合体形成が引き起こすHippoシグナル抑制と胃がん発症との関連を解明する。
|
Research Products
(19 results)